「早く結婚しろ」。まだ独身のままでいたいのに、家族や親戚から盛んに急かされる。そんな女性は今も少なくないのではないか。都内で働くT子さんもその一人だ。「30代になったから当然といえばそうだけど、疲れてしまうほどです・・・」
T子さんは、ようやく仕事が軌道にのってきて、もう少しキャリアを積んでから結婚を考えたいと思っているが、なかなか親族の理解を得ることができないという。同世代の友人も、「結婚しろ」と過剰なまでに干渉され、傷つき苦しんでいる女性が多いと話す。
おそらく親族に悪気はなく、良かれと思って結婚を勧めているのだろう。だが、おせっかいの領域を通り越して、精神的な苦痛を与えるようになったらどうか。T子さんは慰謝料を求めることができるのだろうか。橋本智子弁護士に聞いた。
●慰謝料請求が認められる条件とは?
「結論からいえば、慰謝料を獲得するのは無理でしょう」
このように橋本弁護士は述べる。なぜだろうか。
「他人に精神的苦痛を与えるあらゆる行為について、慰謝料が発生するわけではないからです。平たく言えば、行為自体が相当に悪質で、それによって生じた結果が一定程度、重大であって初めて、慰謝料の支払い義務が生じるのです」
残念ながら、裁判に訴えたら「勝てる」とはとうてい言えないケースのようだ。では、精神的苦痛に対して、慰謝料が発生するのは、どんなときなのだろうか。
「たとえば、名誉や社会的信用をひどく傷つけられたとか、前科を公表されるといったレベルの重大なプライバシー侵害がされたとか、ストーカー被害を受けたとか、そういったケースです」
たしかに、そうした例と並べられると、「早く結婚しろ」という言葉の「悪質性」はかすんでしまうだろう。「早く結婚しろ」というプレッシャーに対しては、何かできることはないのだろうか。橋本弁護士は次のように指摘し、現実的な対処法を探るべきだとアドバイスしていた。
「結婚しろというプレッシャーでも、たとえばその干渉の度合いが、強要罪という犯罪を構成するほどに暴力的・脅迫的であるような場合であれば、慰謝料が認められる可能性はあるかもしれません。
とはいっても、裁判をするためにかかる手間・暇・弁護士費用などを考えれば、費用倒れどころか大損でしょう。そういう親戚とのつきあい方や、やり過ごし方を考えるほうが現実的ですし、建設的です」