長年連れ添った夫婦が離婚するのはただでさえ大変な場合が多いのに、ドイツでは、別居のまっただ中に「宝くじ」に当選してしまった夫婦がいたようだ。案の定、財産分与をめぐって訴訟となり、ようやくその裁判に決着が付いた、と伝えられている。
報道によると、8年間にわたり妻と別居していた男性が宝くじに当選し、95万6000ユーロ(約1億2800万円)もの賞金を手に入れた。そのとき、男性は別の女性と同居しており、賞金を分け合った。そして、当選の2カ月後に離婚が成立したのだが、「婚姻中の当選なので、自分にも受け取る権利がある」と元妻から請求されたのだ。
二審の高裁判決では、結婚生活がすでに破たんしていたため、元妻は賞金を受け取れないとされた。しかし連邦裁判所(最高裁に相当)は、別居まで29年間連れ添い、子供も3人いる点などを指摘し、男性の取り分の半分にあたる24万2500ユーロ(約3250万円)を元妻が得る権利があるとの判決を下したという。
聞いているだけで、ドッと疲れてしまいそうな話だが、もし同じことが日本で起きたら、どんな結論になるのだろうか。離婚問題にくわしい柳原桑子弁護士に聞いた。
●別居後に得たお金は「財産分与」の対象にならない
「日本の場合、原則として、夫婦が別居した後に獲得した財産は、離婚時の財産分与の対象にはなりません。
正式に離婚する前に別居していた場合、財産分与の対象となるのは、《別居開始の時点において存在した財産のうち、夫婦が互いに協力して得たと評価できる財産(共有財産)》です。
別居後に得た財産は、夫婦が互いに協力して得た財産とは言えないと考えられているのです」
そうなると、別居後に宝くじが当たったような場合は、どうなるのだろう。
●日本の法解釈で考えると「異例」の判断
「この夫婦は、2000年に別居を始めています。宝くじが当たったのは別居後の2008年ですから、原則として分与の対象にはならないと言えます。
また、そもそも宝くじは射倖性が高く、賞金も運や偶然によるところが大きい収入です。仮に同居中に賞金を得てから離婚した場合でも、当然に半分ずつにわけるべきということにはならないでしょう。
よって、日本の法解釈からすれば、連邦裁判所の判決は異例の判断といえます」
柳原弁護士はこのように指摘したうえで、次のようにつけ加えていた。
「ただし、財産分与は、単なる共有財産の精算だけではなく、慰謝料や扶養の要素を含んで行われる場合もあります。
具体的な背景事情はわかりませんが、連邦裁判所が『夫婦として29年間連れ添ったこと』や『子供が3人いる点』などの諸事情を指摘していることからすれば、そうした要素が考慮された判断、と理解する余地もあるでしょう」