交際相手にどのタイミングで「すっぴん」を見せるか、というのは、女性にとって結構悩ましいポイントかもしれない。相談サイトを眺めていると、「もしがっかりされたら……」とためらい、付き合い始めてすぐではなく、ある程度関係が落ち着いてから——という人が多いような印象を受ける。
だがもし、結婚するまで、ずっと化粧をした顔しか見せてこなかったらどうだろう。メイク後も印象が変わらない人も多いだろうが、場合によっては初めてすっぴんを見せたら、夫が自分だと気づいてくれなかった、ということもあるかもしれない。
ネット上では「彼女のすっぴんが全く別人で冷めてしまいました。別れたいです」といった書き込みが複数ある。もし結婚後、妻の「素顔」があまりにもメイク顔と違った場合、夫はそのことを理由に離婚ができるのだろうか。妻の側からすれば、「そんな狭量な夫とは別れたほうが正解」なのかもしれないが……。離婚問題にくわしい須山幸一郎弁護士に聞いた。
●民法が定めている「離婚原因」にあたるかどうかが問題
「まず大前提として、万が一、本音がそうであっても、さすがに別の理由で(価値観の相違など)離婚したいと伝えるのが一般的だとは思います。夫がかつらを取ったら別人だった、というケースも同様ですが、そういった理由で離婚を言い出すのはお勧めできません」
——それでは仮に、万が一、夫が露骨に「すっぴんが別人すぎる」ことを理由に離婚を求めた場合は?
「妻が応じてくれれば、『協議離婚』は可能です。しかし、妻がこれに応じない場合、『離婚調停』の申し立てをしなければなりません。
我が国では、いきなり離婚訴訟を起こすことは原則として認められておらず、まずは調停を経るよう求められているからです(調停前置主義)」
——それでは、調停でうまくいかなかった場合に初めて訴訟になる?
「そうですね。その場合、離婚訴訟を提起することになります。ただ、訴訟となれば、民法が定めている『離婚原因』のどれかに当たるということを主張し、立証しなければなりません。
民法には次の5つの離婚原因が列挙されています。
(1)不貞行為
(2)悪意の遺棄
(3)3年以上の生死不明
(4)回復見込みのない強度の精神病
(5)その他婚姻を継続しがたい重大な事由
『すっぴんが別人すぎる』は(1)〜(4)には当たりませんので、(5)に該当すると主張することになります」
——では、「すっぴんが別人」は「その他婚姻を継続しがたい重大な事由」に当てはまる?
「具体的にどのような事由が(5)に該当するかは難しい問題です。裁判官は夫婦間のすべての事情を考慮しながら、社会通念や経験則に基づき判断します。
ただし、別人に見えるかどうかは非常に主観的な問題で、客観的に『婚姻を継続しがたい』とは言いがたい。実際のところ、裁判官が離婚を認める可能性は低いと思われます」
どうやら、「すっぴん」を理由に離婚したくても、裁判所が認めてくれるのは難しいようだ。そもそも、そんな理由で離婚を切り出さないほうがいい、というのが須山弁護士のアドバイスでもある。ここは素直にそのアドバイスにしたがっておくのがよさそうだ。