1967年公開のアメリカ映画『卒業』は、優れた演出や俳優陣の演技で、現在でもアメリカ映画の代表作の一つとして数えられている。
ストーリーの大筋は、ダスティン・ホフマン演じる主人公の青年・ベンが、近所の中年女性と情事を繰り返した後、その娘・エレーンと恋に堕ちるという話だが、なんといっても特筆すべきはラストシーンだ。
エレーンが他の男性と結婚するのを知ったベンは、単身で挙式中の教会に乗り込み、「エレーン!」と絶叫する。エレーンも「ベン!」と呼びかけに応じ、引き留めようとする周囲を振り切って、2人で教会から走り去るのだ。このシーン、パロディやオマージュで何度も取り上げられており、作品を見たことがなくても、なんとなく覚えがあるという人は多いのではないか。
映画は2人が乗り込んだバスが遠ざかっていくシーンで終わるが、気の毒なのは残された花婿だろう。精神的苦痛はもちろんのこと、長い時間をかけて準備してきた結婚式も台無しだ。
もしこれが現実に起きたら、残された花婿は、花嫁を連れ去った男に対して、式費用や慰謝料などの損害賠償を請求できるのだろうか。冨本和男弁護士に聞いた。
●不当に婚約を破棄させたら「不法行為」
「それは請求できるでしょう」。冨本弁護士はズバリ、断言する。
「将来結婚しようという男女間の合意を『婚約』といいます。婚約をした人は、法律上の義務を負うことになります。その義務の内容は、相手方と誠実に交際し、やがて婚姻を成立させるように努めることです。
婚約を不当に破棄するということは、この義務を果たさず、民法上の『不法行為』をしたということになります。つまり、その人には損害賠償をする責任が生じます。さらに、本人だけでなく、婚約を不当に破棄させた第三者も『共同して不法行為を行った』として損害賠償責任を負います」
――映画「卒業」のようなケースでは、「婚約が成立していた」といえる?
「婚約が成立しているかどうかは、裁判でもよく問題となります。ただ映画のように結婚式にまで至っているのであれば、『婚約』は成立していたと、問題なく認められるでしょう」
――式費用と慰謝料の両方を要求できる?
「はい。結婚式当日に花嫁を連れ去られるという形で婚約を不当に破棄されれば、連れ去られた花婿は精神的ダメージを負いますから、慰謝料は認められるでしょう。また、結婚式のために支払った費用も無駄になりますので、式費用も請求できるでしょう」
つまり、ひとたび「婚約」までいけば、そこには「法律上の義務」も発生するということだ。結婚するとき迷いが「全くない」と断言できるカップルがどれぐらいの割合なのかは知らないが、「ドタキャンしたときに負う法的責任」について、頭の片隅に入れておいてもよさそうだ。