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「福山雅治」を名乗り続けた窃盗容疑者の身元判明――もし「偽名」のままなら裁判は?
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「福山雅治」を名乗り続けた窃盗容疑者の身元判明――もし「偽名」のままなら裁判は?

私は「福山雅治」です――。窃盗の疑いで逮捕されたあと、歌手・俳優として有名な芸能人と同じ氏名を名乗り続けていた40代の男性容疑者の身元が5月21日、ついに判明した。岐阜県警が所持品の製造番号などから身元を割り出し、岐阜市に住む43歳の無職男性だと明らかにしたのだ。その本名は「福山雅治」とは、似ても似つかぬものだった。

報道によると、男性は過去に2回、窃盗容疑で逮捕された際にも「福山雅治」を名乗り、いずれも有罪判決を受けていた。今回は、5月13日に岐阜県内のスーパーで焼酎など25点(4465円相当)を万引した疑いで逮捕されたが、やはり本名ではなく「福山雅治」だと主張していた。

男性は「福山雅治」を名乗った理由について、「新聞などに名前が載るのが恥ずかしくて、偽名を使った」「とっさに思いついた」と供述しているそうだ。過去2回の裁判は「偽名」で乗り切ったことになるが、手続き上、問題はなかったのだろうか。今回も本名が判明しなければ、どうなっていたのか。伊藤諭弁護士に聞いた。

●氏名は被告人を「特定」するための重要な要素

「氏名というのは、生年月日や住所、本籍などと並んで、被告人を特定するための非常に重要な要素です。

起訴された場合、そもそも、『この裁判が誰に対するものなのか』という点が明確でないと、場合によっては、間違った人が刑の執行を受けることになりかねないからです。

また、前科の有無などを確認するにあたって、氏名が分からないと、本来ならば執行猶予を付けられない被告人に対して、執行猶予を付けてしまうといった事態も考えられます」

氏名が分からないと、起訴できないのだろうか。

「氏名が最後まで分からない場合でも、それだけで起訴ができなくなるわけではありません。起訴状に、人相や体格、身体的特徴を記載したり、勾留中であれば留置番号を記載して写真を添付するという方法が取られることもあります」

●「本物」の福山雅治さんに不利益が及ぶことはない

裁判が始まったら、どうなるのだろうか。

「被告人が別人の名前をかたって起訴されたケースについて、過去の裁判例では、起訴状の表示を基準にしながら、検察官の意思や被告人の行動などを踏まえ、『誰が被告人なのか』を判断しています」

今回のケースでは、どうなるだろうか。

「今回逮捕された男性の本名が『福山雅治』でないにもかかわらず、この男性が『福山雅治』という氏名で起訴されたとしても、検察官が起訴しているのは、福山雅治と名乗っている『この人』であることは、明らかです。

また、起訴後も身柄拘束が続いていれば、法廷に連れて来られた人が、被告人として行動し、取り扱われた者であることは、一目瞭然です。本物の福山雅治さんに不利益が及ぶことはありません。

実際に、この人の氏名が本当に分からないまま起訴される場合、検察官は、起訴状に『自称』と表示し、留置番号などを併記するなどして、あくまでも起訴の対象は『この人』ですよ、といった手当をすると考えられます」

伊藤弁護士はこのように述べていた。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

伊藤 諭
伊藤 諭(いとう さとし)弁護士 弁護士法人ASK川崎
1976年生。2002年、弁護士登録。神奈川県弁護士会所属。中小企業に関する法律相談、弁護士等の懲戒請求やトラブル対応などを手がける。第一法規「懲戒請求・紛議調停を申し立てられた際の弁護士実務と心得」著者。

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