働きながら子育てをするワーキングマザー。彼女たちが置かれている状況はハードだ。職場の風当たりを気にせず子どもや家庭の都合を優先するべきか、子育てはほかに任せて仕事を優先するべきか、あるいは仕事を辞めるべきか――そんな葛藤を抱えている女性は少なくないだろう。
ワーキングマザーたちへの理解が足りないのは、会社だけではない。埼玉県在住のTさんは「家庭の中で理解が得られず板挟みになっている」と苦しい胸の内を明かす。義理の父母からは「うちの嫁は家事も子育てもしない」と心無いことを言われているそうだ。
Tさんにも家事や子育てに専念したい気持ちはある。しかし、責任のある役職を任されている立場上、仕事を早く切り上げることは難しいという。最近では、義父母の意向に弱い夫も冷たくなり、「離婚」という言葉もちらほら出始めた。「子どものためにも離婚したくはない」と話すTさんだが……夫から離婚されても仕方ないのだろうか。離婚問題にくわしい佐々木未緒弁護士に聞いた。
●「家事をしない」だけで離婚が認められることはない
「私がよくするたとえ話ですが、離婚が認められる理由として、柔道でいう『一本』になるのは、浮気(不貞行為)とDV。それ以外の理由は柔道でいうと『有効』や『技あり』で、いくつか合わせないと勝てない、というのが実情です」
佐々木弁護士は柔道にたとえて、このように説明する。DVや浮気などを除けば、何か一つの理由だけで離婚が認められることは少なく、いろいろな理由が積み重なってはじめて、離婚が認められるということだろう。「家事をしない」はどうだろうか。
「『家事をしない』というのも、この『有効』になりうる理由の一つです。なぜ『なる』ではなく、『なりうる』なのかというと、それは『家事をしない』といっても、そのレベルが様々だからです。
一般的に、夫は、『自分の母親と同レベルの家事』を妻に要求するものです。母親が専業主婦だった場合は要求するレベルが高く、母親がワーキングマザーだった場合には要求レベルは低くなります。これは、子育てについても同様です」
●「男性は寂しがり屋で、すぐにヘソを曲げてしまう」
家事や子育てをどこまでやれば「十分」なのかは、その人の価値観しだいのところが大きいため、裁判所としては判断がしにくい、ということだろうか。
「したがって、『家事をしない』『子育てをしない』というのは、『有効』となるとしても、ポイントが低いのです。それだけで離婚が認められることはありませんので、ご安心ください」
佐々木弁護士はこのように指摘したうえで、次のようにアドバイスを送っていた。
「もっとも、男性はすごく寂しがり屋で、構ってもらったり、褒めてあげたり、労ってあげないとすぐにヘソを曲げてしまうもの。
なので、奥さんが仕事と子育てばかりに邁進していて、たとえば疲れてセックスレスになると浮気をしてしまうとか、『愛情が冷めたから離婚する』と言って家を出て行ってしまうこともあるので、ご用心を!(これは私も経験済み(苦笑))」