妻に内緒でタバコを吸っていたら、ある日バレた――。東京都在住の会社員Yさんは、結婚して10年近くになる。結婚直前、いまの奥さんから「タバコはやめて」と言われたので、禁煙宣言した。しかし実際は、長年にわたって、こっそりタバコを吸っていたのだ。
そんなYさんに悲劇がおとずれた。1カ月ほど前の深夜、集合住宅のゴミ捨て場に行ったついでに、一服して部屋に戻ったところ、臭いから喫煙がバレてしまった。激怒した奥さんからは、「裏切られた。もう、離婚してやる」と三行半を突きつけられた。
別れたくないYさんは、「二度と吸わない」と平謝りして、その場をなんとかおさめた。しかし、タバコはなかなかやめられない。今後も奥さんともめる可能性があるという。はたして、奥さんに隠れてタバコを吸っていたことは、離婚の原因になるのだろうか。原野聖子弁護士に聞いた。
●「夫婦関係が破綻している」とまでは言い難い
「民法では、裁判上の『離婚の原因』について、
(1)不貞な行為(いわゆる浮気)があったとき
(2)悪意で遺棄されたとき
(3)生死が3年以上不明なとき
(4)強度の精神病にかかり回復の見込みがないとき
(5)その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき
という5つを定めています。いずれかに該当すれば、夫婦の一方の同意がなくても、裁判で離婚することができます」
原野弁護士はこのように述べる。隠れてタバコを吸っていたことは、離婚の原因になるのか。
「まず、隠れてタバコを吸っていたことは(1)~(4)に該当しません。(5)に該当するかどうかが問題になります。
(5)にあてはまるかどうかは、さまざまな事情を考慮した上で、『夫婦関係が修復不可能なほどまでに破綻しているか』によって、判断されます。
単に、隠れてタバコを吸っていただけでは、『夫婦関係が破綻している』とまでは言い難いでしょう。
したがって、(5)にも該当せず、裁判上『離婚の原因にならない』と判断されるのが通常だと考えます」
●「できない約束はしない」
Yさんはタバコをなかなかやめられそうにない。今後もタバコをきっかけとして、夫婦関係に溝ができる可能性もある。そうなった場合はどうなのか。
「たとえYさんが別れたくないと思っても、裁判所が『夫婦関係が破綻した』と認定する場合には、離婚の原因になります」
そんなYさんはどうすればよいのか。
「まずは、できない約束はしないことです。タバコをやめることができないなら、できることを確認しましょう。
奥さんが『タバコをやめて』と言う理由を確認し、『臭いが嫌』というなら、臭いの少ないタバコに変える。『煙が嫌』というなら、煙の少ないタバコに変えたり、会社でしか吸わないようにしたり、本数を減らすくらいはできるのではないでしょうか。
そして、自分の努力の過程を奥さんに控えめに報告してください。
相手の言葉をきちんと聞くこと、そして、それにできる限り対応すること、少なくとも対応しようとする姿勢を示すこと。
離婚したくないのであれば、面倒くさいという気持ちを乗り越えて、努力することが必要です」
原野弁護士はこのようにアドバイスしていた。