居酒屋などで、気持ちが悪くなっても、トイレに駆け込まず、その場で嘔吐してしまう人がいる。若者たちの間のスラングでは、「場ゲロ」と言うらしい。
たとえば、居酒屋の座席で場ゲロがあった場合、周囲の客に迷惑がひろがる。学生街のある居酒屋では、場ゲロの「罰金」として1万円(自分たちで掃除した場合、罰金は5千円に下がる)を設定して、マナー向上を呼びかけている。
一番迷惑なのは、まちがいなく店なのだから、「罰金」も仕方がないと思える。それにしても、1万円は高くないだろうか。法的には、どれくらいの金額が妥当といえるだろうか。寺林智栄弁護士に聞いた。
●「一概に高いとは言えない」
「わざと、あるいは注意不足で、他人の権利を侵害してしまった場合、それによって生じた損害を賠償する責任が生じます。そうした行為を『不法行為』といいます。今回のような場ゲロは、不法行為に基づく損害賠償の問題になるかと思います。
損害には、人件費や清掃費用、使えなくなってしまった備品の交換費用などが含まれるでしょう。どれくらいの費用がかかるかは、店にもよると思います。一概に、1万円が高いとまでは言えないのではないでしょうか」
たとえば畳部屋の場ゲロで、10万円を請求されたというケースもあるそうだ。
「畳は、吐しゃ物が目詰まりしてしまうので、畳自体を交換せざるをえないこともあるでしょう。これもいくらの費用が実際にかかるかは、店によると思いますので、10万円という金額が一律に高い低いとは言えません。ただ、畳代や交換の際の人件費などを考えると、ある程度高額にならざるをえないのではないかと思います」
●「店側は根拠ある金額を請求すべき」
それでは「罰金」は仕方ないのか。
「店側が、場ゲロした人にお金を請求したいというのはわかりますが、居酒屋のトイレは客数のわりに個数が少なく、1カ所しかない場合も多いです。トイレまで吐くのを待てなかった場合、すべて客の責任とまでは言えないのではないでしょうか。なので、一律に費用請求する店があるとしたら、非常に疑問に思います。
また、費用を請求する場合は、制裁としての意味がある『罰金』という用語を使うのではなく、明細を示したうえで、根拠ある金額を請求すべきでしょう。
そうでなければ、その店の悪評が高まり、逆に集客に影響するのではないかと思います」