同級生の男子生徒のツイッターアカウントを乗っ取り、本人になりすまして、女子高生らに300回以上メッセージを送ったとして、兵庫県警は1月30日、同県の高校3年の男子生徒(18)を不正アクセス禁止法違反の疑いで逮捕した。
報道によると、逮捕容疑は2016年9月から11月にかけて、同じ高校の女子生徒に人気のある男子生徒(18)のツイッターの認証サーバーにパスワードを入力して、63回ログインし、アカウントをフォローする他校の女子生徒らに「体を見せ合おう」「エッチな話をしよう」などとわいせつなメッセージを送ったというもの。本人は容疑を認めているという。
今回の乗っ取りを図ったとされる男子生徒の行為は、法的にはどのような問題があるのか。ネット上の誹謗中傷の問題に取り組む唐澤貴洋弁護士に聞いた。
●アカウント乗っ取り、民事・刑事双方の責任を負う可能性
ツイッターアカウント乗っ取りにより生じる法的問題は2つあります。
1つは、乗っ取り犯の刑事責任の問題です。男子生徒が逮捕された今回の報道のように、他人のIDとパスワードを用いて、他人に無断でツイッターアカウントを利用する行為は、不正アクセス禁止法(第11条、第3条、第2条4項1号)に違反するとして、刑事責任(3年以下の懲役又は100万円以下の罰金)を問われる可能性があります。
もう1つは、乗っ取り犯の民事責任の問題です。民事責任の中でもその内容で大きく2つに分かれると考えられます。
民事責任の1つ目は、被害者本人が乗っ取られたアカウントを利用して自由な表現活動をできなくなったことについての損害賠償責任です。
また、乗っ取り犯が、乗っ取ったツイッターアカウントを用いて、社会的に問題とされるツイートやDM(ダイレクトメッセージ)を投稿することによって、あたかも被害者本人が当該投稿を行ったかのような印象を閲覧者に与えてしまいかねません。
そのことによって、被害者本人の名誉権等が侵害されたとして、乗っ取り犯に損害賠償責任が生ずる可能性があります。これが2つ目に考えられる民事責任です。
●なりすまし、どう特定すればいいのか?
本人になりすます行為をされた場合、そもそも、なりすましをした者を特定できるのかが問題となります。
なりすましをした者が、元々あるアカウントを乗っ取ることにより不正アクセス禁止法に反する行為をしていれば、警察による捜査を期待できます。
しかし、本人の名義等を用いてなりすましでアカウントを新設された場合、アカウント新設行為を取り締まる法律がないため、刑事責任の追及は困難です。
この場合の法的手段として、いわゆるプロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求をすることが考えられます。
アカウント新設の際に、本人の名前が無断で利用されて、閲覧者から本人のアカウントであると認識される状態であれば、いわゆる氏名権(正当な理由なく、その氏名を第三者に使用されない権利)が侵害されたとして発信者情報開示請求を行う余地があります。
さらに、なりすましアカウント上で社会的に問題とされる表現行為が公開された場合も、同様に名誉権侵害を根拠に発信者情報開示請求を行いうると考えられます。
このような発信者情報開示請求により、発信者特定の問題が解決できれば、なりすましによってわいせつなDMが第三者に送信された場合、自己の氏名を正当な理由なく利用されたことにより精神的苦痛等の損害が生じたとして、なりすましをした者は本人から損害賠償請求される可能性があります。
【取材協力弁護士】
唐澤 貴洋 (からさわ・たかひろ)弁護士
インターネット上の法律問題(名誉毀損・誹謗中傷への法的対応(投稿記事削除、投稿者の特定)など)を専門的に取り扱う。インターネット上の権利侵害の問題に対して強い警鐘を鳴らし、新たな立法の必要性を主張している。
事務所名 :法律事務所クロス
事務所URL:https://cross-law.jp/