「日本一危険なすべり台」としてテレビで紹介されて、ツイッターやネット動画サイトなどでも話題を集めた「すべり台」が一時的に使用禁止になった。すべり台のある公園を管理する今治市は、使用ルールを注意喚起する看板を増設したうえで、10月14日から使用再開とした。
今治市の担当者によると、話題のすべり台は、1991年に設置された。長さ60メートル、平均傾斜は27度もあるという。今治市は公園に、(1)ねそべってはいけない(2)雨などで濡れているときは使用しない(3)すべりやすい服装を着用しない、といった内容が書かれた注意看板を設置している。
ところが、9月下旬ごろから、勢いよく滑る様子を撮影した動画がネット上で話題になった。今治市は、ルールを守らない使用で事故が発生するおそれから、一時的に使用禁止にした。今治市の担当者によると、すべり台は、日本公園施設業協会の安全基準を満たしており、これまで事故は報告されていないという。
今治市の担当者は、「ルールさえ守っていただければ事故は起きない」と話している。ただ、もしこの「日本一危険なすべり台」でケガをした場合、法的には誰の責任になるのだろうか。好川久治弁護士に聞いた。
●「安全性の欠如」があるかどうかがポイント
「問題のすべり台は、今治市が設置管理する『公の営造物』ですから、万が一、すべり台に通常有すべき安全性に欠ける『瑕疵』がある場合、今治市は、ケガにより発生した損害を賠償しなければなりません(国家賠償法2条1項)。この責任は、『過失』の有無を問いません。
その反対に、通常有すべき安全性に欠ける点がなければ、ケガをしても自己責任ですから、誰にも損害賠償などの法的責任を追及することはできません」
好川弁護士はこのように述べる。安全性の欠如があったかどうかはどう判断するのか。
「営造物の構造、本来の用法、場所的環境および利用状況など、いろいろな事情を総合的に考慮して、具体的・個別的に判断します。
たとえ、本来の用法と異なる方法で使用された場合であっても、設置・管理者にとって通常予想できるものであれば、これに堪えうるだけの安全性を兼ね備えなければならないとされています」
今治市は、(1)日本公園施設業協会の安全基準を満たしていること、(2)使用上の注意事項を定めた看板を設置していること、(3)これまで事故が起きていないこと、などから法的にも問題はないと説明している。
「たしかに、これらは安全性を推測させる事情ではありますが、(1)の基準は、あらゆるケースを想定した万全の基準とは限りません。(2)も常時監視員がいて注意事項を遵守させているならともかく、読まない・読めない・守らない利用者が相当数いるとすれば、説得力がありません。
(3)も重大事故が起こっていない、報告されないというだけで、ケガをした人が皆無というわけではないでしょうから決定的な理由とはならないでしょう。
安全性の欠如があったかどうかは、あくまでも利用者の属性、利用状況などを踏まえた個別、具体的判断です。また、設置・管理者が危険を予測できた場合には、責任が発生することはあります」
●「安全性に問題がないと言い切れるのか疑問」
動画サイトYouTubeなどには、複数の動画が投稿されている。それによると、急降下のすべり台を人が高速ですべり落ちてくる様子が映っている。
「ある映像には、『落下速度が40キロを超える』と表示されているものもあり、なかには、人が落下時点の先の段差のあるコンクリート部分まで飛ばされて、転がる様子が映っているものもあります。
また、今治市の担当者らしき人が『すべり台の底部に縦のパイプが敷かれているので、スピードが出やすく危ないと思います』と説明している映像もありました。このような状況を踏まえると、『法的な安全性に問題がない』と言い切れるのか、疑問を感じざるをえません。
たしかに、注意事項を守って利用していれば、普通はケガをすることはないのでしょうし、仮に、注意事項を守ってケガをすれば、それこそ安全性に問題があったといえるでしょう。
しかし、仮に注意事項を守らなくとも、利用者の属性や利用状況によっては安全性に問題ありとされることはあると思います。
この場合、自治体としても責任を免れることはできません。ただし、利用者側にも、注意事項を守らなかった点で相当大きな過失がありますので、その分、請求できる賠償額は大幅に減ることになります」
好川弁護士はこのように述べていた。