「あの野郎、死なないかな」。誰でも生きているうちには、何度かそう思うことがあるかも知れない。そうした思いを汲み取るかのように、ネット上には、依頼者の代わりに呪いの儀式を行う「呪い代行」サイトが数多く存在する。
「恋人の浮気癖を治す」「商売繁盛」などの比較的軽いものから、「嫌いな相手を徐々に弱らせ死に追い込む」といったメニューが用意されていて、方法も西洋魔術をベースにした「悪魔召喚」から、古典的な「丑の刻参り」まで様々だ。価格は、軽い内容だと数千円からだが、「呪殺」は大体10万円から、高いところだと80万円以上する。
ある「呪い代行」サイトには、「大嫌いだった上司が交通事故に遭いました」という声が紹介されているほどだが、そもそも、人を呪い殺そうとすることは法律的に問題ないのか。また、仮に「呪い代行」を利用して、効果を感じることができなかった場合、返金を要求することはできるのだろうか。西川英樹弁護士に聞いた。
●誰かを「呪い殺す」契約は「公序良俗違反」になる
「呪うことは、殺人罪(刑法199条)の実行行為にはなりません。呪ったところで、相手が死に至る現実的な危険性はないからです」
西川弁護士はこのようにズバリ語る。
「刑法では、こういう行為のことを『不能犯』と呼んでいて、処罰もされません。もっとも、『おまえを呪い殺そうとしている』と相手方に告げる行為は、脅迫罪(刑法222条)に該当する可能性があるので、注意が必要です」
現実的に不可能なことをやろうとしているから「不能犯」というわけだ。そうだとすると、依頼者はそもそも実現しない要望を「呪い代行業者」に依頼していることになる。では、「嫌いな人を呪い殺して」と業者に頼んだ依頼者は、お金を払う必要はないのだろうか?
「そもそも、『人を呪い殺してもらう契約』は公序良俗(民法90条)に反するので無効といえます。もし、呪い代行業者から代金の請求を受けた場合、『契約は公序良俗違反で無効』と主張し、支払いを拒むことができます」
すでに支払ってしまっていた場合でも、お金を取り返すことができる?
「いえ、すでに支払ってしまった代金については、原則として、返還請求はできません。呪い殺す契約のように『不法な原因』で支払ったお金は、『不法原因給付(民法708条)』といいます。このような場合は、お金を支払った側にも非があると考えられるので、例外的な場合を除いて、『お金を返してくれ』と要求できないのです」
日本では昔から、ワラ人形に五寸クギを打ち付けるなど「呪殺」を信じる文化があるといえるが、呪いの代行を依頼する行為は「公序良俗違反」となってしまうようだ。もし誰かを呪いたいと思っても、それは自分の胸のうちにとどめておくのがよいということなのだろう。