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「ネットに闇はない、それは人の心の中にある」清水陽平弁護士が語るネットトラブル
清水陽平弁護士

「ネットに闇はない、それは人の心の中にある」清水陽平弁護士が語るネットトラブル

「ネットで裸の写真を公開され、『清楚なふりして淫乱です』と書き込まれた」

「従業員が、業務用の冷蔵庫に入る悪ふざけ動画をネットで公開。またたく間に店が特定され、本社に批判が殺到した」

インターネット上でそんな目に遭った人から、「中傷をやめさせたい」「書き込みを消してもらいたい」といった相談を日々受けている清水陽平弁護士がこの6月、トラブル対処法のノウハウをまとめた書籍『サイト別 ネット中傷・炎上対応マニュアル』(弘文堂)を世に出した。

違法な書き込みを削除してもらうにはどうすればいいのか、2ちゃんねるやツイッター、フェイスブックなど30のサイトごとに異なる方法について、それぞれの「削除申請画面」を具体的に示しながら丁寧に解説しているのが特徴だ。

トラブル事例に登場するのは、サラリーマンやアルバイトの大学生など、ごく普通の人々だ。もしかしたら自分も、ちょっとしたきっかけでトラブルに巻き込まれるかもしれない。万が一、そんな目に遭ったら、どのように対処するのが「正解」なのか、清水弁護士に話を聞いた。

●削除請求は「単純ではない」

——『サイト別 ネット中傷・炎上対応マニュアル』では、ツイッターやFacebook、2ちゃんねるなどのサイト別に「削除依頼の方法」が詳しく書いてありました。分かりやすくまとまっている一方で、ずいぶん面倒な手続を踏まないといけないのだなという印象も受けました。なぜ情報を削除してもらうことに、そんなに手間がかかるのでしょうか? 「誹謗中傷を受けて困っているからそれを削除してください」という要望に答える責任が、サイト管理者にはあるのではないですか?

「そう単純でもありません。たとえば犯罪が起こって、ニュース記事で犯罪者の名前や顔写真が掲載されれば、本人にとっては不名誉なことですが、その情報を必ずサイトから削除しなければならないということにはなりません。その時点での報道は、必要といえる場合もあるでしょうし、一定程度やむを得ないともいえます。

その情報を書き込んだ人だけでなく、サイトの管理者も、消さなくてもいい情報なら削除したくないと思うものです。自分が運営しているサイトのコンテンツが減って、アクセス数が減るかもしれませんからね」

——削除請求を受理してもらうためには、何がポイントになるのでしょう?

「ある書き込みによって、自分の権利が侵害されているということを、いかに詳しく説明できるかですね。サイトによっては管理者がそこまで厳格に説明を求めず、とりあえず削除するというところもありますが。

逆にそこさえクリアできるのであれば、削除請求は弁護士の力を借りずとも、自力でできる場合もあります。削除請求の書面を自分できちんと作れるのであれば、書類の郵送費が数百円かかる程度です。

ですから、今回出版した本も、たとえば企業の法務担当者が、ネットトラブルが起こったとき、ある程度自分で対処できるようにという意図で書きました。

一方で、法律的な文章を書くことに慣れていない場合や、多くのサイトに誹謗中傷が書き込まれている場合には、弁護士に頼むのが現実的だと思います。

また、誰が書き込んだのかを特定するために『発信者情報』の開示請求を行う場合も、裁判をする必要があるので、弁護士に頼まないと難しいでしょう」

●あなたの名前で検索したらどうなる?

——手間や労力をかけるなら、いっそのこと放置するというのはどうなのでしょうか?

「放置するのは、得策とは言えません。基本的に、削除してもらわない限り、ネット上に情報が残り続けます。ネット上の中傷は、自分が不快かどうかというだけの問題ではなく、『それを他の人に見られてどう評価されるのか』が問題です。

たとえば、Aさんと名刺交換した後、ネットを検索して『気をつけろ、Aは詐欺師だ』というような情報が、ずらずらと出てきたらどう感じるでしょうか。Aさんが実際に詐欺師かどうかはともかく、『この人と取引していいのかな』と不安に思いますよね。そこが問題なんです。

大企業の中には、『ネット上に不穏な噂が出ている人間とは取引をするな』とコンプライアンスで決まっているところもあります。つまり、誹謗中傷を放置すると、クライアントとの取引機会を失いかねないということです」

——ネット上に、自分に関するネガティブな情報が1つでもあったら、必ず削除請求をすべきなのでしょうか?

「必ずしもそうではないです。たとえば、自分の名前で検索したとき、ポジティブな情報がたくさんある中に、1つだけネガティブな情報がある程度なら、放置しても問題が起こる可能性は低いでしょう。

また、前後の文章に脈絡がない、異様に長いなど、明らかに精神を病んでいるような人が書き込んだ情報については、本気で受け取る人が少ないと思われるので、『削除しなくてもいいのでは』と、アドバイスすることもあります」

●「炎上したら、すぐに削除請求」はリスキー

——少し話は変わりますが、最近、企業の不祥事や、店員が店の冷蔵庫などに入る「バイトテロ」など個人の軽はずみな行動によって、ネット上で非難を浴びる「炎上」が続発しています。炎上が起こったときも、すぐ削除請求をすべきなのでしょうか?

「企業が炎上した場合、『とりあえず削除請求をする』ことには、リスクもあります。炎上直後は、ネットのユーザーが何か新しいネタがないかと探し回っている状況です。そんなときに削除請求をすれば、そのこと自体が『新たなネタ』となり、さらなる炎上の燃料になることもあり得ます。削除請求は、しばらく時間が経ってから、周囲の興味が失われた後に行ったほうが安全です」

——では、炎上が起こった場合にまず何をすべきなのでしょうか?

「企業の場合は、炎上の事案が事実なのか社内で調査して、できるだけ素早く公式発表を行いましょう。『現時点でわかっているのは、この情報だけです』『現時点では、これ以上の情報はありません』とハッキリ示すことで、変な憶測での書き込みを防ぐことができます。あとは、不誠実だと思われないように、定期的に情報をアップデートすることです。

一方で、個人の場合は、言い方は悪いですが、さっさと逃げることです。できれば、すぐにSNSのアカウントやブログの類を全て消して、個人を特定されないようにすることをお勧めします」

——炎上を起こさないためには、何に気をつければいいのでしょうか?

「そもそもの話ですが、『SNSはネットに公開されていることを意識する』ということです。店の冷蔵庫などに入って、その様子を投稿する『バイトテロ』は、まさにその例です。本人からすれば『友達に馬鹿をやっているところを見せて、笑いを取ろう』というくらいの軽い気持ちだったと思いますが、誰でも見ることができる(=公開されている)ということを忘れていたからこそ、起こったものといえます。

また、私がお勧めしているのは、『投稿ボタンを押す前に、ひと呼吸置くこと』ですね。炎上は、フェイスブックよりツイッターで発生しやすい。ツイッターは匿名のアカウントを手軽にいくつでも作れるし、スマホや携帯でいつでも投稿できるからです。

ツイッターが普及する前は、何かを書き込みたいと思ってもパソコンしか手段がなかったので、机の前に座ってパソコンを起動する、ネットカフェに行くなどの手間がかかり、その間に『書き込まなくてもいいかな』と、気持ちが落ち着く人もいました。

ところが、ツイッターはスマホで反射的に投稿できるので、後先考えずに軽い気持ちで投稿した内容が炎上するケースが増えているように感じます」

●「人の心が闇なだけで、ネットは闇ではない」

——最近増えてきているネットトラブルはありますか?

「一般的に増えているかは分かりませんが、私のところにある相談で増えているのは、ツイッターやフェイスブックの『なりすまし』ですね。たとえば、あるガス会社の元社員が、同僚になりすまして、『人の家のガスの元栓開けといた』と写真付きでツイートした事例があります。人の命に関わるいたずらですし、社名も書かれていたので、『うちの社員にこういう人がいると思われたら困る』ということで相談がありました。

ほかにも、女性になりすまして、女性の携帯電話の番号を書いて『ひまだから電話して』『セフレ募集中』などと書き込むケースもあります」

——恨みや復讐心からの行動なのでしょうか?

「そういう目的でやっている人もいれば、愉快犯がおもしろがってやっている場合もあります。多くの場合は、恨みと悪ふざけなど複数の目的があり、単一の目的でやっていることは少ないかもしれません」

——誰がどんな目的で行っているのかわからないところに、ネットの闇を感じます。

「なりすましをしたり、誹謗中傷を書き込む人は、ふたを開けてみれば、中小企業の経営者など、社会的地位が高い人だったという場合もあります。また、論理的な文章になっている人もいれば、ひたすら長文の妄想をだらだら書いているなど、明らかに精神を病んでいる人もいます。


『ネットの闇』などという言い方がされることもありますが、個人的には、ネットはすごく便利なツールで、『ないと困るもの』だと思います。闇があるのは、ネットの中ではなく、むしろ人の心の中ではないでしょうか」

(弁護士ドットコムニュース)

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

プロフィール

清水 陽平
清水 陽平(しみず ようへい)弁護士 法律事務所アルシエン
インターネット上で行われる誹謗中傷の削除、投稿者の特定について注力しており、総務省の「発信者情報開示の在り方に関する研究会」(2020年)、「誹謗中傷等の違法・有害情報への対策に関するワーキンググループ」(2022~2023年) の構成員となった。主要著書として、「サイト別ネット中傷・炎上対応マニュアル第4版(弘文堂)」などがあり、マンガ・ドラマ「しょせん他人事ですから~とある弁護士の本音の仕事~」の法律監修を行っている。

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