妻のスマートフォンに「遠隔操作アプリ」を勝手にインストールしたとして、奈良県内の会社員男性(35)が4月上旬、「不正指令電磁的記録供用罪」の疑いで、奈良県警に逮捕された。男性は容疑を認めているという。
報道によると、男性は昨年7月、妻のスマホの中に、遠隔操作でメールを閲覧したり、居場所を特定できるアプリを無断でインストールした疑いがもたれている。妻が今年3月、スマホに見覚えがないアプリが入っているのに気づき、県警に相談して発覚したという。
この「不正指令電磁的記録供用罪」は、なんだか難しい名前に見えるが、いったいどんな犯罪なのか? また、遠隔操作したのが「赤の他人」のスマホであれば、逮捕されても仕方ないのかもしれないが、家族である「妻」に対する行為でも犯罪になってしまうのだろうか?
●2011年に定められた新しい「犯罪類型」
情報セキュリティにくわしい福本洋一弁護士は、次のように解説する。
「『不正指令電磁的記録供用罪』(刑法168条の2第2項)とは、正当な理由がないのに、他人のパソコンやスマートフォン等の端末を、その意図に沿うべき動作をさせないか、あるいは、その意図に反する動作をさせるような『不正な指令』を与えるウイルス等のプログラムに感染させ、ウイルスを実行させるといった犯罪のことです。
有罪となれば、3年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられます。
『ウイルス作成罪』と呼ばれる『不正指令電磁的記録作成罪』とともに2011年に新設された犯罪類型ですが、『不正指令電磁的記録供用罪』は、ウイルスの作成や提供だけではなく、ウイルスに感染させる行為自体も処罰の対象にするのが趣旨です」
●ウイルスでなく「アプリ」でも犯罪になる
今回は「ウイルス」ではなく、「アプリ」だったが、なぜ『不正指令電磁的記録供用罪』に問われてしまうのだろうか。
「不正な指令を与えるプログラム(電磁的記録)の典型として、『コンピュータ・ウイルス』が挙げられます。
もっとも、今回のような別の端末から遠隔操作や位置情報の取得ができる機能を有する『アプリ』であったとしても、使い方によってはウイルスと同様に本人の意図に反した動作をさせることができます。そのため、本人に無断で遠隔操作したり、位置情報を取得する意図でインストールする場合には、『不正な指令を与える電磁的記録』に該当しうるといえます。
また、犯人以外の『人の電子計算機(パソコンやスマートフォン等)』に対して行うと成立する犯罪ですので、たとえ犯人の妻であっても、本人の承諾がない以上は犯罪として成立することになります」
福本弁護士はこのように述べていた。