作家・村上春樹さんが、ファンからの質問に答えるサイト「村上さんのところ」が、大反響だ。
村上さんの大ファンであるHさん(30代・女性)は、毎日何通も質問のメールを送り続けたら、なんと村上さんからの返信メールを受け取ることができた。うれしさのあまり、HさんがSNSで「ハルキから返事が来た!」と報告すると、友人たちからは「すごい!」「どんな内容だったの?」と反響があった。
ところが、こうした友人たちのちょっとした質問に、Hさんは答えられずにいる。受け取ったメールの末尾に、「この返信メールを、ブログやTwitter、FacebookなどのSNS等へ転載することはご遠慮ください」という注意書きがあったからだ。
Hさんの頭の中では「自分に対する返信なのだから、SNSで紹介しても問題ないのではないか」という考えもよぎったという。はてして、メールの注意書きを守らなければ、「違法」となってしまうのだろうか。著作権問題にくわしい高木啓成弁護士に聞いた。
●村上さんのメールが「著作物」かどうかがポイント
「著作権法上、著作物を無断で複製することは禁止されています。村上春樹さんの返信メールが『著作物』にあたれば、SNS等への転載ができないことになります」
高木弁護士はこのように述べる。「著作物」にあたるかどうかは、どう判断するのだろう。
「『著作物』にあたるかどうかは、思想または感情が創作的に表現されているかどうかという基準で判断されます。これは、村上春樹さんのような世界的な作家でも、一般人でも違いはありません。
たとえば、事実そのものを表現しただけでは、『思想または感情』が表現されているとはいえず、著作物にあたりません。また、非常に短い表現や、ありふれた表現も、『創作的』とはいえず、著作物にはあたらない場合が多いといえます」
では、村上春樹さんの返信メールは「著作物」なのだろうか。
「村上春樹さんの返信メールは、簡潔ながらも、村上春樹さん流の一貫した思想に基づいて、機知に富んだ表現で記されています。思想または感情が創作的に表現されているといえるでしょう。
したがって、『著作物』にあたると考えられます。著作権法上、SNS等への転載ができないことになります。SNSは多数の人が閲覧できるので、『私的利用のための複製』とも認められないでしょう」
●「著作物」にあたらない場合でも、契約違反になる?
村上さんの返信には、非常に短い分量のものもあるが・・・
「たしかに、内容によっては、返信が『著作物』あたらない場合もあるかもしれませが、その場合にも、契約上の問題を考えなければなりません。
『村上さんのところ』には、『無断転載を禁じます』と記載されており、質問者は、これを読んだ上で質問することになっています。
ですので、質問者と『村上さんのところ』の管理者である新潮社との間では、『村上春樹さんの返信メールを転載してはならない』ということが合意され、それが契約の内容になっているといえます。
したがって、仮に村上春樹さんの返信メールが『著作物』にあたらない場合であっても、SNS等に無断転載することは、新潮社との契約違反になってしまいます。やはり、SNSへの転載は認められないでしょう」
高木弁護士はこのように話していた。