フジテレビなどで放送された恋愛リアリティー番組「テラスハウス」に出演したプロレスラーの木村花さんが、SNSで誹謗中傷を受け2020年5月に亡くなったことをめぐり、母響子さんが12月6日、フジテレビと制作会社に対して、慰謝料など約1億4219万円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴した。
この日、会見を開いた母響子さんは「裁判は避けたいという思いがあったが、やむを得ず致し方なく、提訴することになりました。2年半以上、一度も私は真摯な対応をしてもらうことができませんでした。若い人たちがやりがいや夢を搾取されるようなことは、これ以上起きて欲しくない」と話した。
●「コスチューム事件」で花さんに誹謗中傷が殺到
訴状によると、木村花さんはフジテレビと制作会社が共同制作していた『TERRACE HOUSE TOKYO 2019-2020』に出演。2019年9月2日、テラスハウスに入居し番組出演を始めた。次第に花さんの印象が悪化するような編集がされるようになり、2019年11月ごろから番組での言動についてSNSで誹謗中傷が始まった。
そんな中、2020年1月21日、花さんが女子プロレスの試合で着用している大切なコスチュームを洗濯機に置いたまま外出したところ、他の出演者が洗濯してしまい、コスチュームが縮んでしまう出来事が起こった。
これは後に第38話で「コスチューム事件」として編集され、Netflixでは3月31日、地上波ではフジテレビで5月19日に配信・放送された。第38話の後半では、花さんが他の出演者に激怒する様子が映され、花さんにさらなる誹謗中傷が殺到するようになった。
花さんはNetflixの放映後、リストカットをおこない、SNSで公開したり番組スタッフに連絡したりした。フジテレビでの放送後、誹謗中傷はさらに激化。2020年5月23日に自殺した。
原告側は、花さんが2019年8月にフジテレビと制作会社との間で結んだ出演契約(同意書兼誓約書)は、撮影方針など全てフジテレビらの指示・決定に従い、途中リタイアしないことを誓約するものである一方、違反して放送や配信が中止となった場合には巨額の賠償が予定されていることなどから、「直接の契約関係にあり、安全配慮義務を負っている」と指摘。
出演契約締結後や花さんがリストカットした後に、撮影や編集、配信等について出演者に十分な配慮をする義務、出演者への誹謗中傷に対処する義務などに違反しており、それにより花さんが精神疾患を発症し自殺に至ったことから、損害賠償責任を負うと主張している。
●母響子さん「出演者を人として扱って」
訴状では、リアリティ番組の特徴と危険性や出演者の圧倒的に弱い立場について、以下のようにまとめている。
「演出や指示、編集で制作された番組は出演者のリアルと乖離しているにもかかわらず、フジテレビと制作会社はその説明を怠り、むしろリアルであることを積極的に宣伝し、出演者が標的になりやすい構造をつくってきた。 さらに、番組構成としてスタジオトーク等による辛辣な評価等が出演者に加えられ、その視聴者の反応が出演者自身に向けられて炎上が誘発される構造があり、加えて本件番組は開始当初からSNSによるリアクションの対象となっており、制作サイドはむしろSNSを活用して、炎上を誘発してきた。 その結果、まだ若い出演者が深刻な誹謗中傷にさらされるリスクを番組は恒常的に生み出していたと言える。 そのような出演者に対する危険を有する番組であるが、出演者は同意書兼誓約書によって、出演者が演出等の指示に従うことを義務付けられ、契約関係からの離脱の自由は認められず、損害賠償の予定等によってフジテレビらによる指示等に拒否することは困難である」
代理人弁護士によると、フジテレビ側は番組の未編集動画があると認めつつ、未だ開示していないという。代理人の平井康太弁護士は「(番組は)編集されて放送されているので、実際にはどういうやりとりがあったのかを明らかにしたい。不誠実な対応だと感じている」と話した。
母響子さんは「作る側の責任として、視聴者が求めるからなんでも作っていいわけではないと思う。出演者を見て人として扱っていただきたい」と訴えた。
●フジテレビ「コメントは控える」
フジテレビは取材に「訴状が正式に届いていないので、コメントは控えさせていただきます」、制作会社は「訴状が届いていないので、届きましたら対応したい」とコメントした。