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【新・弁護士列伝】難民や在留資格の問題を抱える外国人を支援「出会う前より幸せになってほしい」本田麻奈弥弁護士インタビュー
本田 麻奈弥弁護士

【新・弁護士列伝】難民や在留資格の問題を抱える外国人を支援「出会う前より幸せになってほしい」本田麻奈弥弁護士インタビュー

弁護士ドットコムニュースでは、一般の方々に弁護士をもっと身近に感じていただくために、学生による弁護士へのインタビュー企画をおこなっています。

今回お話を伺ったのは、本田 麻奈弥弁護士(いずみ橋法律事務所)です。本田弁護士は、学生時代にクロアチアの難民キャンプを訪れたことをきっかけに弁護士を志しました。現在は、難民や日本での在留資格がない人たちの問題解決に注力するほか、離婚やDVなど家庭問題も手がけています。

インタビューでは、難民キャンプでのエピソードや、外国人問題への思いなどについて、お話いただきました。

クロアチアの難民キャンプでの経験が転機に

−弁護士を目指したきっかけや理由を教えてください。

きっかけは、大学1年生の春休みにクロアチアの難民キャンプへボランティアに行ったことです。私が大学生の頃、ワーキングホリデーが流行っていて、友人たちはニュージランドやオーストラリアに行っていました。私も、春休みをどう過ごそうか考えていた頃、たまたま大学の掲示板でボランティア応募を知り、参加してみようと思ったんです。大学1年生の秋にアメリカで同時多発テロが起こり、その後アフガニスタン攻撃が始まって、紛争や難民という存在に自然と目が向く状況だったことも参加を後押ししました。

ボランティアで訪れたキャンプで、ボスニアヘルツェゴビナから来た難民の女性に「あなたの国に難民がいるなら、助けてあげてね」と声を掛けられました。その言葉が心に残り、帰国してから調べてみると、日本にも難民がいるけれど、なかなか保護されないということを知りました。私は、もともと法律家になろうと思って法学部に進学したわけではありませんでした。でも、クロアチアでの経験を通し、法律を使って困った人を助けることができるかもしれないと思い、弁護士を目指すことにしました。

−クロアチアでの経験を通じて何を感じましたか?

クロアチアで3週間過ごして、ショックを受けました。それは、難民の人たちの姿に対してではなく、難民の人たちが閉塞感を感じざるを得ない状況に対してです、1人ひとりに夢や希望があるのに紛争や迫害によって制限され続けることに対してです。難民の人たちが直面している現実を見て、自分が恵まれた環境にいること、そのことに気づかずにいたこともショックでした。結果がどうなろうと、自分で選択し、行動できるということ自体が恵まれていることなのだと分かりました。そんな気持ちも手伝って、弁護士になろうと決めて勉強をはじめました。自分で進路を決めて、そこに向けて取り組めることは幸せなことだという意識があったので、集中できていたと思います。3年生が終わるときにロースクールの2年コースに飛び級で進学しました。

−注力分野は何ですか?

プロボノ活動としては、難民事件のほかに在留資格のない子どもたちが日本にいられるようにするための法的支援にも取り組んでいます。外国籍の人が日本にいるためには在留資格が必要で、在留資格がなければ日本からの退去強制を命じられ得る立場に置かれます。そして、子どもたちの在留資格の有無や種類は親の在留資格の有無や種類によって決まります。「ビザがない(オーバーステイ)親から生まれた」、「親の昔の在留手続の不正が最近発覚して、親のビザが取り消されたせいで子供もビザもなくなった」など事情は様々。私は、日本に住み続けたいけれども、在留資格がなくて日本から退去を命じられてしまう子どもたちの法的な支援に関わっています。

−在留資格のない子供たちにはどのようなサポートをされていますか?

在留資格を貰うために入管での手続きを手伝い、それでも認められない場合には国を相手にして、在留資格を求める裁判を起こします。

思春期の子どもたちは、皆、多かれ少なかれ受験、友人関係そして将来の夢について考え、悩むのではないでしょうか。在留資格に問題があると、そうした全てのことに影を落とします。言葉も離せない本国に帰らされるかもしれないという恐怖を感じながら、受験したり、将来のことを考えなければいけないわけです。ストレスがかかりすぎて潰れないように、できるだけ子どもたちの話を聞く機会をつくり、親御さんにも「あまりプレッシャーをかけないであげて」と伝えることもあります。裁判中の子たちの中には、「いい学校に入ればビザを取れるかもしれない」と受験勉強を頑張る子もいます。その姿を見ると、応援する気持ちとともに、無理しないでほしい、早く在留資格を取得して安心して勉強に臨めるようにしてあげたいと心から思います。

「依頼者の幸せな姿を見られることがやりがい」

−どのような相談が多いですか?

外国人のビザの相談に加え、多いのが離婚などの家庭問題です。弁護士になった当初、家庭問題に取り組もうと意識していたわけではありませんが、働き出してから自然と扱うことが増えました。家庭内暴力(DV)などで悩んでいる女性からは、「女性弁護士の方が話しやすい」ということで相談や依頼を受けることが多いです。

−コロナ禍で増えた相談はありますか?

深刻な家庭問題でしょうか。もともとモラルハラスメントやDV被害を受けていた当事者の方からは、一緒にいる時間が増えたことで「モラハラやDVがひどくなって辛い」と相談を受けることが増えました。問題が深刻でなければ、コロナ禍がひと段落してから相談しようと考える方もいると思いますが、状況が深刻な方は、ひどくなる一方なので、相談や依頼に来ているように感じます。

−問題が深刻になってから相談に来られる方が多いのですか?

そうですね。トラブルがあったときに、自分で「まず弁護士に相談しよう」と思う方は少ないです。DVの相談センターに電話したら「弁護士に相談するように」と言われた、周りの人のなかに、弁護士の知り合いがいる人や弁護士に依頼した経験がある人がいて、弁護士のところに行くよう勧められたということで、相談するケースが多いと思います。相談の中には、もっと早い段階で相談してもらえていたら、というケースがよくあります。

−弁護士の仕事にやりがいを感じる瞬間はどんな時ですか?

裁判に勝った・負けたよりも、事件が終わった後に、依頼者の人生が私と出会う前よりも良くなっている時にやりがいを感じます。事件から何年も経っても連絡をくださって、その人が自分らしく人生を歩んでいる様子を伺えたり、「先生のお陰で乗り越えることができました、ありがとうございました」と声をかけていただけると、本当に嬉しいです。

トラブルに対する解決の形は人それぞれです。たとえば、DVの被害にあってきた方の離婚事件の場合、離婚だけでは足りず、しっかり慰謝料が取れなければ納得できないと考える人もいます。他方で、金銭的な請求に拘らないで、一刻も早く離婚して、相手方との関係を断ち切ることが何より大事だという人もいます。似たように見えるケースでも正解はいつも同じではありません。依頼者の方の意思を出来るだけ尊重する形で紛争を解決して、依頼者が幸せそうにする姿を見られた時、弁護士として仕事をすることができて本当によかったと思います。

−裁判をやっているときはどんなことを意識していますか?

依頼者が何を本当に望んでいるのかを考えています。何が正解かは弁護士が決めるのではなく、依頼者が何を望んでいるのかというところが出発点だと思います。

時間の経過によって依頼者の考えが変わることがあります。離婚事件の場合、離婚できるなら何もいらないと思ったり、許せなくなったり、時間をかけるべきかわからなくなったり…。依頼者の話を聞きつつ、また考えが変わるかなと思ったら、「今はまだその主張をせず待っておきましょう」と言う場合もあります。対外的にはフラットに見せられるように気をつけながら対応することもあります。法律というよりも人との接し方やコミュニケーションの取り方ですよね。

−家庭問題と外国人問題では、依頼者の方との接し方が変わってきそうですね。

家庭問題は、依頼者が「自分で決断した」というプロセスがすごく大事だと思います。決めるのは私ではなく、当事者本人。長年DVやハラスメントを受けていると、「私は何もできないし、誰かが決めたことに従う」という思考を持ちがちです。離婚手続の中で、依頼者自身が、自分で判断していくというプロセスは大切だと思います。

一方、外国人問題では、依頼者に対する自分の立ち位置が違います。弁護士である自分が前面に立って戦わなければいけない時があります。プロセスも当然大事ですが、日本にいたいというはっきりした目的のためにタイミングを逃さないように率先して動くべきときもあります。

ただ、子どもでも、難民の方々でも、「かわいそうだから助ける」対象なのではなく、ひとりの人として、決断できる当事者として、尊重することが大事だという点は共通するかもしれません。どんな状況にある人も、何歳の人でも、自分の人生を選択する力を持っているはずです。そして、その力は、とても大きく、時に相手を、社会すらも変えるエネルギーを持つものだと思います。 私は薬害肝炎弁護団でも活動していますが、薬害被害にあった原告さんたちが持つ、薬害のない社会にしたいというエネルギーはとても純粋で力強く、心を揺さぶるパワーを持っています。

人々が決断するときのハードルや障害物を本人と一緒に取り除いていくこと、時にその決断によって社会問題を解決できるよう調整することが弁護士の仕事かもしれないと思います。

「難民はあなたの身近にいる」と伝えたい

−2021年はどんな活動に力を入れられていましたか?

私は、現在、日弁連人権擁護委員会で、主に外国人の人権問題を扱う第6部会の部会長を務めています。今年の国会で入管法が改正される話がありました。この改正は、難民認定の手続中の人であっても一定の場合には強制送還を可能したり、退去強制令書が出ても従わなければ罰則を課すことができるようにするなど外国人難民の人たちにとって厳しい方向のものだったので、反対する活動をしていました。結果として、法案の成立が無事見送られました。

個別の事件へのアプローチとは違う視点で入管法の問題に関われたことは、とても有意義でした。この改正法案の問題をどう報道してもらうか、国会議員の人たちにどうアプローチするか、どのように社会的に訴えるのか。個別の事件とは違うフィールドで問題提起することはすごく新鮮でしたし、本当に大切なことだと痛感しました。

今回の入管法改正法案の成立見送りは、報道やSNSを通じて社会的に関心をもってもらえたことが大きな要因でした。ですから、私たち弁護士は、国会や世論、メディアへの働きかけをもっと重視すべきだと思いました。普段、難民問題の深刻さが伝わらずに悩むことがありますが、私たちがもっと社会にその問題を伝えていかなければいけない、裁判以外のところにも問題を訴えていく必要があると感じました。

−多岐にわたるご活躍をされている先生のパワーの源はなんですか?

やりたい、取り組みたいと思った時には、自然とエネルギーが沸いてきます。寝る時間を割いて対応している時でも「この問題を解決したい」「この局面を乗り越えたい」という気持ちが先にあるので頑張ることができます。

後輩を育てようと指導してくれる先輩や鼓舞しあえる仲間の存在も頑張ろうと思える力の源です。事務所の先輩はもちろん、事務所外の弁護団の先輩との出会いや交流も、支えになります。辛い時でも先輩や仲間がいるから頑張ろうと思えることがあります。

−どうしたら一般の人が難民や在留資格がない人のことを自分ごととして考えられると思いますか?

家庭問題や交通事故は、「自分がこの人の立場だったら」と想像できるので、関心を持ちやすいのではないでしょうか。しかし、難民や在留資格がない人の問題は、なかなかイメージしにくいと思います。「自分が外国で難民だったら」、「迫害されたら」と考えることは滅多にないでしょうし、思える条件も揃っていません。そんな時に「実は、彼ら彼女らは身近にいますよ」と伝えることも、弁護士の大事な仕事だと思います。

一般の人には、難民や在留資格がない人をイメージで一括りにせず、実際の姿をみて、それぞれに問題を考えてほしいと伝えたいです。

とはいえ、当事者の人たち自身がメディアに出ていくことは難しいとも感じます。残念ながら、今の時代、メディアに出ていけば、差別的な攻撃の対象になる危険がありますから、そういう被害に晒されてほしくないと思います。その反面、実際に在留資格を求めて裁判をしている中学生の子は、どこにでもいる中学生と何ら変わりはありません。その姿を見てほしいという思いもあり、葛藤しているところです。

まずは記者の人や関心のあるメディアの人など、報道する立場の人に、難民や在留資格がない子どもたちの姿を見てもらえたらと思います。見てもらった上でなら、どのようなスタンスで捉えてもらってもいいと思うんですよね。イメージや数字だけで考えないようにしてもらえたらと思います。そうした人に、難民や在留資格がない人について考えてもらう機会を提供するのは、弁護士の役割かと思います。

−難民という括りも大きいですよね。

「難民」といっても千差万別ですし、国によっても、人によっても、抱えている事情は全く違います。難民という括り自体は、あくまでも、迫害のおそれがあるために庇護する必要がある状態を表しているだけ。一人ひとりの人格を表す言葉ではありません。難民一人ひとりの人権が守られて、彼らの奥にある個性やポテンシャルが発揮できる社会になればいいなと思います。

−今最も着目している難民・外国人問題はなんですか?

日本の状況として、難民や外国人の管理を厳しくしていこうとする流れが一部にはあります。入管法改正はこの前の国会では見送りになったけれども、また同じような法案が国会で出てくるかもしれません。問題の根源は、日本の入管の管理だけではないと思います。社会の中で自分と違う人をどう受け入れるのか、という問題に繋がっているのではないでしょうか。外国籍も個性の一つです。誰の入国を認めて誰に退去してもらうかという国境の問題というより、どういう社会を作っていくのかという問題に関わっていると思います。

−近年、個性を大事にしようという風潮は感じます。

そうなんですよね。個性の話題でいうと、夫婦別姓の裁判は結果的に負けてしまったけれど、「選択制だったらいいのでは」という意見もありました。LGBTについての社会的な理解も深まってきています。個性を尊重するという風潮がある中、外国人問題だけが厳しい目を向けられていると思うんです。多様性が叫ばれている中で、外国人問題はまだ流れに合流できていないと感じていますが、きっとこうした社会の流れに同調できるものだと思っています。

身近な人だけではなく、専門家にも相談する勇気を

−今後の展望を教えてください。

弁護士登録してから今までの10年は、個別のケースに対応するのに必死でした。依頼者との生の会話なくして、弁護士は問題の発見も解決もできませんから、一つひとつのケースと向き合うのはすごく大事なことです。他方で、解決したい個別事件に横たわる問題を根本的に解消していくには、裁判をするだけではなく、社会に訴えたり、社会的な流れを作ったりするところにも目を向けないといけないと思っています。今までは余裕がなくてできなかったけれど、より広いところに目を向けながら、何ができるのか考えていきたいです。

−法律トラブルを抱えて悩んでいる方にメッセージをお願いします。

弁護士のところに相談に来てほしいと思います。トラブルを家族や親しい人以外に言うのはすごく勇気が必要だと思います。でも、弁護士に相談することでトラブルをより早く解決できる可能性があります。弁護士ではなくても、行政機関の窓口などでもいいので、身近な人にだけ相談するという発想を抜け出して、専門家に相談しにきて欲しいです。

トラブルが法律問題なのかわからない時もあると思います。何かトラブルが起こってしまっても、トラブル自体は法律トラブルと名乗ってくれません。法律トラブルかどうかわからなくても、少しだけ勇気を出して、弁護士のところに相談に来てほしいです。法律問題だとわかれば、弁護士が引き取ります。法律問題ではなかったら、そのトラブルを解決する専門機関を紹介できるかもしれません。事態が進行して問題が深くなる前に、法律事務所に足を運んでいただきたいと思います。

プロフィール

本田 麻奈弥
本田 麻奈弥(ほんだ まなみ)弁護士 いずみ橋法律事務所
2007年弁護士登録、第一東京弁護士会所属。家事、渉外事件などを取り扱い、外国人事件・難民事件にも取り組む。2011年に人権擁護委員会・外国人部会長(第一東京弁護士会)を務め、現在は日弁連の人権擁護委員会第6部会(国際人権問題及び戦後補償問題に関する検討部会)部会長に就任するなどして活動している。

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