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「この店で、食中毒になりました。気をつけて!」SNSに書く法的リスク
画像はイメージです(よっちゃん必撮仕事人 / PIXTA)

「この店で、食中毒になりました。気をつけて!」SNSに書く法的リスク

外食先で食中毒になったことをSNSに投稿したら、営業妨害になりますか?弁護士ドットコムの法律相談コーナーに、こんな相談が寄せられました。

相談者は、ある店で食事したところ、食中毒を発症。保健所の検査によって、店と相談者の家族3人から菌が検出されたことから、店で食べた物が原因で食中毒を発症したと明らかになっているそうです。

店は保健所から業務停止命令を受け、2日間休業。しかし店から相談者への謝罪はなく、店のホームページやSNSにも「機器点検の為休業」とあるだけで、食中毒については何も告知がないそうです。相談者は店の対応について「隠蔽するような形で誠意がない」と批判しています。

そこで、相談者は「他に被害者を出さない為にもSNS等のコメント欄に食中毒が出たことを書きたい」と考えています。ただ、事実であっても、食中毒についてSNSに書き込めば営業妨害になるのではないかと心配もしています。

外食先での食中毒被害をSNSに書き込むことは、法的に問題があるのでしょうか?呉裕麻弁護士の解説をお届けします。

●「長期間SNSに残ることは問題がある」

飲食店で食中毒が発生すると、食品衛生法に基づき、業務停止命令がなされることがあります。そして、都道府県知事などは、食品衛生法に基づき、違反者の名称などを公表するよう努めることとなっており、HPなどで営業者の氏名、施設名、行政処分の理由や内容などが公表されます。

ただし、公表期間は無期限ではなく、行政処分を行った日から14日以内に限るケースが多いです。このような食品衛生法やその運用を前提に考えると、ある店で食中毒が発生したことについてのSNSへの投稿が長期間残されることには、問題があるといえます。

SNSなど、インターネットを使った投稿の場合、一度投稿してしまうと、自由に削除ができなかったり、長期間にわたって投稿が放置されたりするケースが散見されるためです。

店が、行政処分や氏名公表といった制裁も受け、営業を再開しているような場合に、過去の食中毒の情報がいつまでもSNSなどに残されることは、飲食店の名誉や営業の自由に大きな支障を与えることとなり、名誉毀損などの問題に発展する可能性もあります。

●「名誉毀損」「営業妨害」となるのか?

ここでいう名誉毀損とは、他人や企業の社会的評価を低下させる行為を意味し、民法上の「不法行為」として、損害賠償などの対象となります。ただし、ある事実を公表した記事や投稿が、

(1)公共の利害に関する事実にかかわるもの
(2)もっぱら公益を図る目的に出たもの
(3)真実であるか、あるいは、真実と信じたことにつき相当な理由がある

という要件を満たす場合、たとえその人や企業の社会的評価を低下させる行為であっても、違法性がないとして損害賠償の対象になりません。今回のケースで考えると、飲食店での食中毒情報は、時間の経過とともにその公益性が徐々に低下していくのが通常です。

そのため、飲食店での食中毒情報は、発生して間もない時期であれば公益性が高いとして、SNSなどでの公表も問題とはならないでしょう。しかし、SNSでの公表をそのまま放置し、長期間経過してしまうと、名誉棄損や営業妨害の責任を問われる可能性が高まると言えます。

したがって、飲食店での食中毒についてSNSで公表したい場合には、その内容が長期間にわたり残ってしまうことの問題を視野に入れて、投稿の是非を検討するべきだと思います。

(弁護士ドットコムライフ)

プロフィール

呉 裕麻
呉 裕麻(おー ゆうま)弁護士 弁護士法人岡山中庄架け橋法律事務所
1979年東京生まれ。韓国籍。2006年に司法試験合格。岡山合同法律事務所に所属後、2013年に現事務所開設。人権問題、交通事故、男女トラブル、インターネット問題、企業法務等、幅広く活動中。

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