「何なんだお前、この写真は!」。彼氏が突然、私の部屋に怒鳴り込んできた。手に持っているスマートフォンには、自分と男友達の映った写真が表示されている……。どうやら、浮気と勘違いされてしまったらしい。
実際は大勢の飲み会で撮影された写真なのだが、二人きりで笑顔を見せているので、「いい雰囲気」に見えなくもない。そんな写真を誰かがフェイスブックに投稿し、たまたま彼氏が見つけたのだ。
SNSやスマホの普及で、プライベート写真をネットに公開するハードルは、技術的にも心理的にも、大きく下がった。だが、そうした写真が、要らぬ誤解を与えるリスクもある。もし、誰かが勝手に投稿した写真が原因で、彼氏に浮気を疑われて「破局」してしまった場合、写真を投稿した人に慰謝料を求めることはできるのだろうか。秋山直人弁護士に聞いた。
●投稿した人に「過失」があるといえるか?
「投稿した人が何の気なしにその写真をアップしたという場合、アップした人に対する慰謝料の請求はまず認められないでしょう」
秋山弁護士はまず、このように指摘する。なぜだろうか。
「その二人で映っている写真をアップすることで、『女性の恋人が浮気を疑う』ということが予見できたとは言い難いからです。
さらに通常なら、もし浮気を疑われても、事実無根だということを女性本人が説明すれば、恋人も納得するはずです。
したがって、投稿した人に、不法行為(民法709条)の成立に必要な『過失』は認められないと思います」
たしかに、そういった状況であれば、関係者に事情を説明してもらうなど、誤解を解消する方法はいくつもある。
●「2人を破局させる目的」が立証できれば、話は別
それでは一方、投稿した人が、実は2人の仲を裂こうとしていた、という場合ならどうだろうか。
「もし、投稿した人が『女性と彼氏の仲にトラブルを生じさせよう』と意図して、あえて彼氏に疑念を持たせるような写真を撮影し、アップしたとなると、話は変わってきます。
万が一、その意図どおりに、女性と彼氏の仲にトラブルが生じ、彼氏が女性に別れを求めたという場合、女性に対する故意の不法行為が成立することはあり得るでしょう」
秋山弁護士はこのように述べつつも、「ただし、そのようなことはレアケースだと思います。また、『故意』についての立証も難しいでしょう」と、指摘していた。
結局のところ、今回のようなケースでは、写真投稿者の法的責任を問うことは相当難しいようだ。誰もがカメラを持ち歩く昨今、SNSに投稿された写真程度では揺るがない人間関係を築くことが、以前よりも重要になってきていると言えるのかもしれない。