今年5月、あるJリーガーが、アダルト動画を自身の「Facebook」上で共有したことが、ネット掲示板などで話題になった。
最近、Facebookユーザーに多発している「ライクジャック」と言われる被害の一例である。ライクジャックとは、アダルトサイトなどの動画再生ボタンに隠しコードが仕込まれており、動画を再生しただけで「いいね!(Like)」ボタンをクリックしたことになってしまうというもの。これによって、Facebook上でつながっている人々に再生したアダルト動画が「お気に入り」としてさらされてしまうのだ。
実名でFacebookを利用している人が、性的嗜好のような高度なプライバシーを含む個人情報を友人や会社の同僚・上司に知られてしまう恐れがあり、ユーザーに衝撃を与えている。
では、自身の意思に反して「シェア」や「いいね!」ボタンをクリックさせられた人は、動画にトラップを仕掛けた人やサイトを運営する企業などに対して、何らかの損害賠償請求をすることはできるかのだろうか。ネットトラブルに詳しい清水陽平弁護士の解説をもとに法的な観点から考えたい。
清水弁護士によると、
「『ライクジャック』を設定しているのはアダルトサイトがほとんどのようです。アダルトサイトを見ていたということは、一般的に他人には知られたくない事項ですから、ライクジャックはそのプライバシー権を侵害することになります。また、その内容次第ですが、社会的評価を下げることになるものもあるでしょう。その場合には名誉権侵害になります。」
「そのため、ライクジャックを設定しているサイト運営者は、プライバシー権や名誉権の侵害(不法行為)を行っていることになります。したがって、これを理由にサイト運営者に損害賠償請求をする余地はあります。」
一方で、Facebook側の規約上、そういった背信的な動画を設置し、勝手に「いいね!」ボタンを押させる行為について、はトラップを仕掛けた人やサイトを運営する企業は違法性を問われないのだろうか。
「そもそも、『Facebookの規約に反した=違法』ではありません。あくまでも規約違反はFacebookのルールに反したというだけで、アカウントの停止などの措置を取られるリスクがあるだけです(規約15)。Facebookの利用規約では『他者の権利の保護』という規約において、『他者の権利を侵害または妨害する、あるいは法律に違反するコンテンツを投稿したり、そのような行為を行わないものとします』と定められています(規約5-1)。」
「先に説明したように、サイト運営者の行為は不法行為に該当する可能性があるので、勝手に『いいね!』ボタンを押させる行為は規約に反するかもしれません。しかし、ライクジャックを規制する規約は直接的には置かれていないですし、『いいね!』を押しているのは、トラップに引っかかっているといっても自分自身ですので、『他者の権利を侵害』したと言えるのかというと難しいところです。」
「むしろ、共有した動画が無修正のアダルト動画だったような場合、『法律に違反するコンテンツ』を共有したとして、ライクジャックを受けてしまった被害者が規約違反となる可能性もあります。したがって、ライクジャックを受けたことが分かった場合、タイムラインから速やかにジャックされた投稿を削除するのが良さそうです。」
Facebookの規約によって、ライクジャックの被害そのものへの対応を求めるのは現時点では難しい。急激に身近なツールになったFacebookだけに、なによりも自身で身を守る術を身に付ける必要もありそうだ。