交差点で停車していたら、後ろから「ドカン!」と突き上げるような衝撃が……。こんな不幸としか言いようがないもらい事故は、一刻も早く「解決」して、忘れたいと思うものだ。
ところが先日、信号待ち中の追突事故で、加害者側が提案した「示談」に応じ、後悔したという話を、自営業男性(28)から聞いた。男性は事故直後、ケガはムチ打ち程度で済んだと判断したため、警察にも届けず、保険会社にも連絡せずに、車の修繕費や自身の治療費などを含め、30万円で加害者側と示談した。
ところが、示談成立の約2週間後に、目まいなどの症状が現れた。病院で診察を受けると、重い後遺症があることがわかった。男性はすぐに加害者側に連絡をとったが「すでに解決済のはず」と相手にされなかったという。
この男性は「加害者に求められて、示談に応じた私がバカだった」と悔やんでいるが、示談の段階で後遺症が発生することを予測できるとは限らない。こうしたケースでは、加害者側に対して、追加の治療費などを請求することは不可能なのだろうか。交通事故にくわしい秋元大樹弁護士に聞いた。
●示談後に発生した損害は認められないのが原則だが・・・
「交通事故の損害賠償において作成される示談書や免責証書には、『これ以外に一切の請求は致しません』という言葉が記載されることが多いです。このような書面を交わして示談が成立した場合、原則として、その示談によって受け取った金額以上の請求をすることはできません」
このように秋元弁護士は述べる。では、示談の後で後遺症が判明しても、被害者は泣き寝入りするしかないのだろうか。
「例外がないわけではありません。最高裁の判例には、示談の時点で予想できなかった追加の治療や後遺症が、示談が成立した後に発生した場合において、その分の損害賠償を認めたものがあります」
ということは、今回のようなケースも、加害者側に追加の治療費を請求できると考えてよいのだろうか。
「いえ、それほど話は簡単ではありません。示談の当時、後の治療や後遺症が『予想できなかったかどうか』についての判断基準は明確ではありません」
●示談後の請求が認められるかどうかは、判断が難しい
このように述べながら、秋元弁護士は、次のような事情が結論に影響を与えると説明する。
・受け取った示談金が、後に発生した治療や後遺症による損害に比べて、多かったかどうか
・示談をした時期が、事故直後だったか、それとも、相当期間程度、経過した後だったか
・示談をした当時、「後に発生する治療や後遺症」も示談の内容に含める意図であったかどうか
「このように複雑な事情が考慮されるため、示談後の請求が認められるかどうかは、なかなか判断が難しいところです」
結局、はっきりとは言えないということだが、事故にあった場合は、どのように行動をすればよいのだろうか。秋元弁護士は「安易な示談は禁物です」と釘をさす。
「まず、交通事故によるケガを甘くみず、しっかりと治療を受けることが大切です。最初は何ともないと思っていたものの、後から重い症状が現れる場合はよくあることです。その可能性もふまえて、少なくとも治療が完全に終了するまでは、示談をするのは避けたほうが良いでしょう」
だが、なかには「早く示談金をもらいたい」という人もいるかもしれない。
「たしかに、そういう方もいらっしゃるかもしれませんが、常に示談が必要というわけではありません。交通事故によるケガで仕事ができない状態になっている場合、示談成立前であっても、一定の金額を相手方やその加入する保険会社から賠償してもらえる場合があります」
このように説明したうえで、秋元弁護士は「正式に示談を成立させる前に、弁護士に相談するのがいいでしょう」とアドバイスし、次のように付け加えた。
「もし示談をした後に、新たに治療の必要性や後遺症が現れた場合には、その分について相手方に請求できる可能性もありますので、弁護士に相談するようにしてください」