車好きの男性にとって、自分の愛車は我が子のようにかわいいものだろう。もし他人が運転して事故を起こし、車体に傷がついたら、ひどく落ち込むに違いない。なかには、自分の妻にすら「車を運転させたくない」という男性もいるようだ。
「妻に車を貸したくない」という悩みは、ネットの相談サイトにも投稿されている。妻の運転が上手ではなく、大事に乗ってくれそうもないため、妻には今度購入する新車を運転させたくないのだという。万が一、事故にあったとき、妻が修理代を負担してくれない可能性があるのも、「車を貸したくない」という気持ちを後押ししている。
だが、夫婦は共同生活を送っていて、お互いに助け合うべき存在のはずだ。このような主張は法的に認められるのだろうか。家族間の法律にくわしい西田広一弁護士に聞いた。
●妻の運転を拒否するためには「合理的な理由」が必要
「購入したのが婚姻中の場合、名義がご主人であっても、その車は『実質的共有財産』となり、奥さんにも財産上の権利が発生します。たとえば、離婚等の際には財産分与の対象となるでしょう。
しかし、この財産上の権利と、車の『管理権限』は別です。この財産上の権利があるからといって、自動的に車を自由に使って良いことにはなりません」
――「管理権限」は誰にある?
「新車は高い買物ですから、購入する時に、夫婦間で話し合いが行われることも多いでしょう。この話し合いで、夫婦どちらが『管理権限』を持つのかを決めることができます。
明瞭な合意がない場合は、ケースバイケースです。しかし、ご主人が自分自身で稼いだお金で、もっぱら自分自身が運転するために購入したという場合、ご主人に『管理権限』があると推定されるでしょう」
――それでは、夫に「管理権限」があれば、「妻に使わせない」ことができる?
「その車が奥さんの仕事や共同生活のために必要という場合には、原則的には、ご主人は車を使用させるべきだといえるでしょう。夫婦には、互いに協力し扶助しなければならない義務があるからです(民法第752条)。
したがって、単に損傷される可能性があるとか、新車を使われるのは嫌だ、という程度の理由では使用を拒否できないでしょう」
――拒否できる場合もある?
「そうですね。たとえば、奥さんが以前に乱暴運転で車を壊したことがあり、今回もその危険が高いと言える場合や、電車で通勤可能などその車を使う必要性がない場合などは、『拒否する合理的理由』とみなされ、使用を制限することができると思われます」
なるほど、妻の運転を拒否するためには、少なくとも「合理的な理由」が必要だということだ。しかし、自分の結婚相手がそこまで危険な運転をするなら、むしろ安全上の理由で運転を自粛してもらうほうが良いのではと思えてくるが……。