夜道を歩いているときに突然、ライトをつけていない自転車が飛び出してきてハッと息をのむ――。そんな経験を、誰もがしたことがあるのではないだろうか。
「近所のコンビニに行く程度であれば、ライトをつけなくてもいいだろう」。自転車に乗る側は、そう思うのかもしれない。だが、夜間の「無灯火自転車」は、歩行者だけではなく、乗用車を運転している人にとっても大変危険な存在だ。ちょっとしたものぐさが、大事故を引き起こすかもしれない。
もし自転車が、乗用車と交通事故を起こしたとき、自転車側がライトをつけていなかったとしたら、損害賠償の責任はどうなるのだろう。悪かったのは自転車の運転者だとして、乗用車側に賠償しなければいけないという事態も起きるのだろうか。香川朋子弁護士に話を聞いた。
●「無灯火」で走行すると、交通事故の判断で不利になる
「自転車は、夜間や暗いところでは灯火をつけなければいけません(道路交通法52条1項)」
香川弁護士はこう切り出した。ライトをつけずに自転車に乗ることは、道交法に違反する行為となるのだ。そんな状況で、交通事故にあうと、どうなるのだろう。
「仮に夜間に無灯火で自転車を走行中に、乗用車と衝突事故を起こした場合、損害賠償請求に際しては、無灯火であったことが請求額に影響を及ぼしてしまいます」
乗用車と自転車の交通事故の場合、それぞれの「過失」がどれだけあったかが重要なポイントとなるが、その過失割合の判断において、「無灯火」での自転車走行は不利に働くというのだ。
「交通事故における過失割合を決める際に参考となる文献(別冊判例タイムズ第16号)によれば、無灯火の事実は『自転車側の著しい過失』の一例として、過失割合が10%加算されるとされています。また、実際の裁判例でも、無灯火の事実をもって、損害請求額が減額されることは多々あります」
●乗用車の運転手は「無灯火の自転車」に注意すべき
では、自転車が無灯火であったために、乗用車側の責任がなくなることもあるのか。香川弁護士によれば、「そういうわけではない」という。
「乗用車の過失の有無は、事故の態様(乗用車に速度違反や徐行義務違反があったかどうか)や自転車運転者の属性(児童や高齢者)など、多くの事故事情が総合的に考慮されて、判断されます。したがって、自転車が無灯火であっただけでは、乗用車の責任がなくなるということはありません」
つまり、乗用車の運転者からすると、無灯火の自転車だからといって、ただちに事故の責任がなくなるわけではないので、注意が必要だ。香川弁護士も、「乗用車の運転者は、無灯火の自転車の存在を十分想定して、運転する必要があります」と警告を発している。
とはいえ、夜間にライトをつけずに自転車に乗ることは、道交法違反であるうえに、万が一事故にあったときに、損害賠償請求額が減額されてしまう原因となるものだ。「ちょっとぐらいなら無灯火でも大丈夫だろう」と安易に考えずに、ライトをつけることを習慣づけたほうがいいだろう。