日本の美術界を揺るがす大スキャンダルがスクープされた。国内最大の公募美術展「日展」の「書」科で、「入選を有力会派に割り振る不正が行われていた」と、朝日新聞が10月30日の朝刊で報じたのだ。その後、他の新聞やテレビも追随して報道し、波紋が広がっている。
報道によると、不正が発覚したのは、石や木などの印材に文字を彫る「篆刻(てんこく)」部門。2009年の審査の際、「会派別入選数の配分表」が審査員に配られ、その指示通りに入選数が決まっていたことが、当時の審査員が書いた手紙などでわかった。
手紙を書いた審査員は「日展顧問の指示だと言われ、その通りにした」と、朝日新聞の取材に証言しているという。その顧問は自らが指示したことを否定しつつも、「書」のすべての部門の審査でそれ以後、理事らが審査前に合議し、入選数を有力会派に割り当ててきたことを認めたという。
日展を主催しているのは、公益社団法人「日展」だ。公益法人として、何らかの法的責任を問われる可能性はあるのだろうか? また、このような「出来レース」が行われていたとすれば、純粋な審査がされていると信じて応募した出展者をだましていたことになる。関係者が詐欺罪に問われたりはしないのだろうか? 中川彩子弁護士に聞いた。
●「公益法人」としての責任は?
「公益社団法人とは、公益目的事業を主に行う社団法人のことをいいます」
このように述べながら、中川弁護士は公益社団法人の性格について、次のように説明する。
「公益社団法人は、公の利益に貢献することから、税制上の優遇が受けられるというメリットがあります。その半面、公益の認定を受ける際には一定の基準を満たさなければならず、認定後も行政庁の監督を受けることとなっています。また、公益社団法人として不適格となった場合は、公益認定が取り消されることもあります」
では、今回の問題は、どのような影響を与えるだろうか。
「公益社団法人は、一般社団法人や株式会社などの他の法人と比較して、社会的に信頼されやすいといえるので、今回、日展が入選を有力会派に割り当てていたことについては、モラル上の問題は大きいといえるでしょう。
今回の問題について、公益社団法人としての適正な運営に疑義があると行政庁が判断した場合、日展に対して報告を求めたり立入検査が行われたりする可能性があります。もっとも、直ちに公益認定が取り消されるような事態にまで発展するとは考えにくいと思います」
●詐欺罪の成立の可能性は?
出展者を「だましていた」といえる点については、どうだろうか。
中川弁護士は「たしかに、出品者から『出品料』をだまし取っていたとして、詐欺罪の成立も検討の余地があると思います」と述べつつも、その適用には否定的な見方をとる。
「出品料は、入選という結果を得るためだけに支払うものではなく、出品すること自体への対価とも考えられます。また、会派に入選が割り当てられることが慣例化しており、出品者もある程度これを了解していた可能性がある場合は、だまし取ったものとまではいうことができず、詐欺罪の適用は現実的には難しいのではないかと思います」
今回の報道を受け、日展は審査に不正があったかどうかを調査する第三者委員会を設置し、11月7日に第1回目の会合を開いた。弁護士を委員長とするこの委員会で、どのような検証がなされるのか、今後の動向に注目していきたい。