「宇宙へ葬って……」。これからは、そんな風に言い遺す人が増えるかもしれない。
遺灰が入った小型カプセルを人工衛星に搭載して打ち上げる「宇宙葬」サービス。この10月から、米国でサービスを提供しているエリジウムスペース社が、日本からの申し込み受け付けを開始した。費用は日本円で20万円弱と、一般人の手にも届く価格だ。遺灰を乗せた人工衛星は軌道上を数カ月間周回し、そのあと大気圏内で燃え尽きる。遺族や友人はそれまでの間、いまどこに遺灰があるのかをスマートフォンなどで確認できるという。
日本では火葬後の遺骨や遺灰は、墓地や霊園、納骨堂におさめるのが一般的だったが、最近では海などに遺灰をまく「自然葬」を請け負う葬儀会社も増えている。いよいよその範囲が宇宙にまで広がったことになるが、「宇宙葬」には法的な問題はないのだろうか。宇宙に関する法にくわしい作花知志弁護士に聞いた。
●遺骨や遺灰の取扱いには注意が必要
「埋葬については、『墓地、埋葬等に関する法律』が、『埋葬又は焼骨の埋蔵は、墓地以外の区域に、これを行ってはならない』と定めています。
また、刑法には『遺骨遺棄罪』(刑法190条)の規定があり、遺骨を不適切に遺棄した人は処罰されます。
それらの法律が存在していることから、墓地での埋葬を行わずに散骨する行為は、従来、一般的には『違法となる』と受け止められていました」
作花弁護士はこう説明する。そうなると埋葬方法や遺骨の取扱いには注意が必要なようだが、「散骨」や「自然葬」は法的に問題ないのだろうか?
「1990年代に入ると、日本では、遺灰を海や山にまく、いわゆる『自然葬』をしたいという希望が増え、実際に自然葬を行う会社も登場しました。
法務省も『葬送の一つとして節度をもって行われる限り、遺骨遺棄罪には当たらない』という立場だとされています」
どうやら、葬儀としての節度やルールが保たれているかぎり、自然葬をすることそれ自体がただちに法律違反とされているわけではなさそうだ。もちろん実際に散骨をする際には、場所や方法を選ぶ必要があるが……。それでは「宇宙葬」はどうだろうか?
●宇宙葬は「新しい時代の、新しい形の自然葬」
「近時始まった『宇宙葬サービス』の内容は、アメリカの会社が人工衛星に入れた遺骨を宇宙に送り、数カ月から1年で人工衛星が大気圏に再突入し、流れ星となって燃え尽きるというものです。
特に節度を逸したものではなく、むしろ新しい時代の、新しい形の自然葬とも言えるでしょう」
「宇宙葬」について、作花弁護士の評価は前向きだ。法律的にも大丈夫なのだろうか?
「実は、さきほど引用した日本の『遺骨遺棄罪』(刑法190条)は、国外で行為が行われた場合には適用されません(刑法3条の国外犯処罰規定に含まれていません)。
実際には、人工衛星がどの国のどの場所から打ち上げられるのかによって、どこの国のどんな法律が適用されるかは変わります。
ただ少なくとも、報道されているような形の宇宙葬であれば、ただちに日本の国内法に違反する、とされることはないように思います」
作花弁護士はこのように結論づけていた。
なお、エリジウムスペース社の説明によると、次の打ち上げは来年夏、フロリダで行われるようだ。