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日本の生きづらさと戦う「弁護士夫夫」 隠れた差別意識を描く映画「愛と法」
戸田監督

日本の生きづらさと戦う「弁護士夫夫」 隠れた差別意識を描く映画「愛と法」

大阪で法律事務所を営む弁護士夫夫(ふうふ)を描いたドキュメンタリー映画「愛と法」。カズ(南和行弁護士)とフミ(吉田昌史弁護士)の元には、自分自身の生き方と社会の仕組みとの狭間で葛藤する依頼者が次々とやってくる。

同性カップルのカズとフミもまた、マイノリティだ。依頼者と正面から向き合い、共に痛みを分かち合う二人。そして、家に帰れば一緒にご飯を食べる。2014年からカメラを回し、約2年半密着した戸田ひかる監督は「彼らは仕事の話ばかりしているんです。とにかく議論が好きで、息を切らさず喋り続ける。編集は大変でした」と笑う。

●カズとフミは「空気孔のような役割」

戸田監督がカズとフミに出会ったのは、2012年。カップルとしての二人の姿に惹かれた。

「お互いの弱さを含めて受け入れ合う姿が、すごく理想的だなと思ったんです。日本人はシャイな人が多い中で、二人はとてもオープン。そして、普通というのが大切にされる日本で、彼ら自身もゲイというマイノリティであり、いろいろな経験をしてきた」

君が代を斉唱するときに起立しなかったとして処分された教師、女性器をかたどった作品を発表し「わいせつ物公然陳列罪」などの罪に問われた芸術家のろくでなし子さん、無戸籍状態だった女性ーー。二人の元には、あらゆる悩み事が集まってくる。

弁護士としてのカズとフミの存在は「空気孔のような役割」だと感じたという。「皆助けを求めて、頼るものもなく、最後の砦として裁判を起こす。彼らの仕事を通じて、人びとの悩みの窓が開く」

●ベールに包まれている日本の生きにくさ

「日本は、人の本心や問題の本質が見えにくいと思う。差別意識や、大変な現状が見えにくく、マイノリティはいない存在にされている」。

10歳からオランダで育った戸田監督は、日本と個人主義社会の国との差別をこう比較する。「マジョリティが大切にされる日本」で、マイノリティとして生きるというのはどういうことか。映画を通じて、日本の社会を映し出したいと考えていた。

「日本は差別があっても見えにくい。だからこそ、困っている人が相談にやってくる彼らの弁護士という職業を通じて、普段はベールに包まれている日本の生きにくさを描くことができるのではないかと思った」

ちょっとした会話や視線の中に垣間見える、マイノリティへの無理解や差別意識。「普段隠れているものだからこそ、描くのが難しかった」という。

●一つの普通に縛られなくていい

講師を務める「憲法カフェ」の講義後、カズは受講者の男性から「血縁関係や法律的な根拠がなければ家族ではない」と言われる。ショッキングなシーンだ。

戸田監督は「あの男性が差別主義者だとは思っていません。皆が持ってる差別意識が出ただけだと思うんです」と語る。

受講者に限った話ではない。どこかしらに皆、ステレオタイプや先入観を持っている。それは、日本人に限らず、知らなかった存在に出会った時に出るものだと考えている。

「皆それぞれマイノリティの部分がある中で、表向きは一緒のように見せている。それって、自分たち自身を苦しめているのではないか。

いろんな普通がある。一つの普通に縛られなくていいと思うんです。そして、あるものの存在を認識して受け入れること。自分の中の当たり前が全てではないと知っておくことが大事だと思います」

映画は9月22日からシネリーブル梅田(大阪市北区)、同月29日からユーロスペース(東京都渋谷区)などで順次公開される。(編集部・出口絢)

(弁護士ドットコムニュース)

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