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いじめの「解決」これでいい?  調査不十分の報告書、学校は加害者を退学にして終わり
高島惇弁護士

いじめの「解決」これでいい? 調査不十分の報告書、学校は加害者を退学にして終わり

2013年9月に「いじめ防止対策推進法」が施行され、重大ないじめ事件が起これば第三者による調査委員会を設置して調査にあたることが義務づけられました。しかし、最近はその第三者委員会の調査や調査報告書の記載をめぐって、遺族が不信感を抱いたり、再調査で結果が逆転したりする例が全国で相次いでいます。

学校問題など子どもの権利に関する事件を扱う高島惇弁護士は「調査委員会の現在の立ち位置はあまりにも不安定。求められる役割は大きいのに対して、強力な調査権限もなく、酷な部分がある」と指摘します。どういうことでしょうか。

●調査不十分の報告書で終わらせないために

ーー全国で第三者委員会の調査や調査報告書をめぐり、遺族とすれ違いが起きています。調査がきちんと行われているのか、疑問に感じます

確かに、報道されているように、「事なかれ主義」で終わろうとするような学校や教育委員会もあります。ただ、学校側は「きちんと調査しました」と言う一方で、被害者側は「他にこんないじめもありました」と主張しますので、学校側が意図的に「事なかれ主義」を貫いているのか、単なる調査の不手際なのかわからないケースが多い。判断は難しいところです。

報告書の内容を巡って揉めることは、多くあります。2017年3月に出された「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」では、調査の進捗状況について被害児童・生徒と保護者に経過報告を行うよう示されています。しかし、被害側に一切そのような報告がなく、報告書で初めて調査結果が上がってくるケースもあります。そうすると被害側は「なぜこのような調査で終わっているのか」と不満が生じます。

そういった事態をできるだけ防ぐため、被害者側は調査委員会に対し積極的な働きかけを行うことが重要です。例えば、被害者側から、外傷の写真や診断書、ICレコーダー、日記やメールなど物的証拠を提供するのは効果的です。

また、いじめを受けていると気付いた時には、SNSの画像を確認してスクリーンショットを撮ったり、外傷があれば写真や診断書をあらかじめ確保することを勧めます。後々それが重要な証拠となります。

●今の調査委員会でできる調査には限界がある

ーー遺族が再調査を求める事例は全国で相次いでいます。そして調査結果が「いじめはあった」とひっくり返ることも多くあります

再調査を行なった結果、新たにいじめの事実や被害結果との因果関係が認定されることもあり、結論ががらりと変わることは決して珍しくありません。

調査はあくまで対象者の任意の協力のもとに行い、情報を集めます。調査委員会や学校は、調査に際して、強制力を伴う権限を有していないのです。また、大学教授や福祉、心理、医療の専門家などで構成される第三者委員会は調査のプロではありません。委員は報酬も少ないため、今の調査委員会でできる調査には限界があるように感じます。

これは仮定の話ですが、証拠収集の権限が一定程度認められれば、SNSやメールなどの資料が集められるようになるでしょう。もちろん、プロバイダに対し開示請求を行うに際しては、その対象となる情報の内容次第では裁判所の判断を仰ぐ必要が生じるため、どこまで権限を認めるのかなど議論は尽くすべきだと思います。

また、委員のなり手が少ないことも問題だと考えています。ある学会では、組織として団体推薦に応じない方針であるとの話もうかがっています。理由として、いじめを否定するような報告書ですと、委員個人に対する世間からの批判が集中してしまい、通常の業務にも多大なる支障が生じてしまうというのです。

誤解しないでいただきたいのは、第三者委員会は詳細な調査をした結果、一部のいじめを認めなかったり、いじめがないと認定したりすることも当然ありえます。結論ありきの調査では、中立で公正な機関とは到底言えません。そこが理解されていないところもあると思います。

●いじめに該当しても、不法行為にならないケース

ーー保護者はどのようなことを求めて、いじめの相談に来ますか

何をもって解決と言うのかは人それぞれ違います。いじめの事実関係を明らかにしたい、その上で、法的責任をはっきりしたいという目的を持たれる方が多いです。いじめ防止対策推進法では、児童・生徒がいじめを受けていると思われるときには、必要な調査を行うよう23条及び28条でそれぞれ定められていますので、保護者の依頼を受けて調査請求を行います。

法的責任について、これは少し専門的な話になりますが、いじめと民法が規定する「不法行為」とは切り離して検討する必要があります。すなわち、現在のいじめ防止対策推進法では、「一定の人間関係」のもとで「心理的又は物理的な影響を与える行為であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているもの」であれば、いじめに該当します。

これに対し、不法行為については、法律上保護されるべき権利利益を違法に侵害されたことが要件となります。そのため、各規定が定められた目的が異なる以上、いじめには該当するものの、不法行為とまでは評価できないケースは一定数生じてしまいます。

大人でもそうですが、人それぞれ傷つきやすさは違いますよね。社会通念上、客観的な観点から違法と評価できるかどうかがポイントになってくるのです。

また、文科省のガイドラインでは「重大事態の調査は、民事・刑事上の責任追及やその他の争訟等への対応を直接の目的とするものではない」と書かれています。調査報告書は民事裁判においても一定の重みがありますが、先ほども申し上げた通り任意の聞き取りにすぎませんし、訴訟において改めて当事者に対し尋問を行うこともあります。

報告書でいじめがありましたと認定されたとしても、完全に納得いく形の解決は難しいです。そもそも、いじめ問題に関しては、法的手段を取って慰謝料をもらったとしても、結局子どもが負った心の傷は完全には回復しません。何をしてもやるせなさは残りますし、大なり小なり不満が出るものです。完璧な結果やお金の解決にこだわると、どうしても幸せにはなれません。そのため、相談に来られた方には、率直に「悔いが残らない形で手段を尽くすことを心がけてください」と申し上げています。

●学校側が加害者も被害者も支えて

ーーいじめの事実が認められた場合、学校はどのような対応を取るのでしょうか

学校は、いじめ加害者である児童・生徒に対し、無期の自宅謹慎処分を下した上で自主退学を勧告し、それでも応じない場合は退学処分を下します。今、この加害児童・生徒の懲戒処分をめぐって紛争化するケースも多く、相談も増えています。

例えば、スポーツクラスや進学クラスなど1クラスの中に加害者と被害者がいて、クラス替えができないために加害者に退学してもらう、といった事案がありました。定義上の「いじめ」に該当するとして、一律に厳しい処分を行うのです。処分の程度については、学校の校風も大きく影響してくるところです。

学校は「いじめをなくさなければいけない」という思いを持っており、いじめ被害者を守る傾向は強まっています。ですが、学校は、教育機関として、加害者である児童生徒に対しても反省を促す使命を有しています。

だとすれば、学外に児童・生徒を排除する選択肢が、本当に教育上やむを得ないと評価できるのか。加害者もまた未成年者であって更生を図る必要性は高いのですから、学校は、安易に教育を放棄するのではなく、被害者はもちろん加害者も支えていく姿勢を意識すべきではないでしょうか。

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プロフィール

高島 惇
高島 惇(たかしま あつし)弁護士 法律事務所アルシエン
学校案件や児童相談所案件といった、子どもの権利を巡る紛争について全国的に対応しており、メディアや講演などを通じて学校などが抱えている問題点を周知する活動も行っている。近著として、「いじめ事件の弁護士実務―弁護活動で外せないポイントと留意点」(第一法規)。

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