広島県廿日市(はつかいち)市の中学3年の女子生徒が今年5月に自殺した問題で、この生徒が通っていた市立中学校と市教委が、同校生徒の保護者たちに対して、「口止め」と受け取られかねない電話をかけていたことがわかった。
報道によると、「口止め」があったのは、事件発生の数日後。亡くなった生徒と同じ運動部の2年生12人が、部内でいじめがあったことを顧問ら2人の教師に報告した。その晩、2年生部員の保護者に対して、「うわさを広めないで」という電話がかかってきた。ある保護者は「口止めだと思った」という。
確かに無根拠な「うわさ」が広まっているなら、その沈静化は必要だろう。一方で、こうした姿勢は、見方によっては「いじめの隠蔽」とも受け止められかねない。保護者はこういった要望に従わなければいけないのだろうか。従わなかった場合、保護者や生徒に対してペナルティが課される可能性はあるのだろうか。板谷洋弁護士に聞いた。
●今回は「口止め」ととられてもしかたがない
「問題とされているのは、学校が市教委と相談して保護者に対して電話をかけた行為です。電話の内容は『うわさが広がると、うわさと事実が混乱し、生徒のアンケートや聞き取り結果が正しく出せないことも想定される』『調査結果が出るまではあちこちに広げないようにしてほしいと(生徒に)話してほしい』というものだったと報道されています」
こうした電話は「口止め」にあたるのだろうか。
「まずは、電話がかけられた状況を考えてみましょう。この時期は、自殺後、遺族から『遺書』と題されたメモが提出され、調査委員会が設置されたころで、おそらくマスコミ各社の取材も過熱していたと考えられます。
遺族としてはおそらく、まず真実を知りたい、どんな情報でも知りたい、と願っていたのではないでしょうか。
一方、学校側としては、衝撃的な事件の後、混乱した状況において、生徒が外部に対して断片的あるいは不確実な情報を提供し、調査委員会の調査を困難にすることを心配したのでしょうが、それも一理あると思います」
どちら側の言い分にも、うなずけるポイントがある……。それらを踏まえると「口止め」にあたるかどうかは、どのように判断すればいいのだろう。
「少し視点を広げて、学校や市教委側の行動を考える必要があります。
たとえば、単に『あちこちに広げないでほしい』と伝えるだけではなく、『いじめの事実を調査委員会に伝えるので、次の方法を取ってほしい』など、調査協力要請の言葉が付け加えられていれば、話は別でしょう。
しかし今回の電話は、12名の生徒が顧問に事実を話した直後に保護者に対してかけられ、その内容も『うわさ』という言葉を使って生徒側をけん制するものでした。また、一般に学校や教委側は、責任追及や訴訟のことを考えて事実を伏せたい傾向を持っていることを考慮すると、今回は『口止め』ととらえられても仕方ないのではないでしょうか」
●「口止め」に従わなくても、保護者や生徒に法的ペナルティはない
もし、「口止め」しようという意図がなかったとしても、そのような印象を与えた学校・市教委側の説明は問題といえるだろう。それでは、生徒や保護者がそういった要請を無視した場合、法的に何らかのペナルティを負う可能性はあるのだろうか。
「いいえ。電話が『口止め』であっても、あるいはそうでなくても、保護者や生徒にペナルティが課される可能性はないでしょう。
ただし、これは全く別の話ですが、もし事実に反した発言で他人の名誉を毀損してしまえば、名誉を傷つけられた側から損害賠償を求められるという別の危険性はありえます」
たしかに、「口止め」も問題だが、個々人の発言に伴う責任そのものは「口止め」とは関係なく発生している。根本的な問題は、そもそもこうした隠蔽が、過去に繰り返し起こされてきたことにあると言えそうだが……。