教師が生徒に対して体罰を加えることは学校教育法で禁止されている。また行き過ぎれば、暴行罪や傷害罪に問われることもよく知られている。だが、教師本人が手を汚すばかりではなく、生徒に命令し「代理」で体罰を行わせるケースもあるようだ。
山形市の市立中学校では、男子バレーボール部の顧問を務める50代の男性教諭が2010年秋ごろから今年2月にかけて、練習でミスをした部員などに「気合いを入れる」ため、部員に命じて互いに顔を平手打ちさせる体罰を繰り返していたことが判明した。
この教諭は自らも体罰を行っていたために、県教育委員会によって懲戒処分を受けたが、生徒を使った「代理体罰」については特に問題にされなかった。だが、考え方によっては、生徒に仲間に対する体罰を命じるほうが悪質にも思える。はたして、代理体罰も法律で禁止されている体罰にあたるのだろうか。代理体罰で、けが人が出たら、その責任は殴った生徒が負うのだろうか。宮島繁成弁護士に聞いた。
●「代理体罰」は、教師による「体罰」とみなすことができる
「教師による体罰は、学校教育法11条但書で禁止されています。具体的に何が許されないかは、これまでの裁判の積み重ねや文部科学省のガイドラインなどによって、ある程度の目安のようなものがあります」
――「代理体罰」については?
「教師が子どもに命じて体罰をさせたという事例は、聞いたことがありません。『代理体罰』という表現も、なるほどと思いますが、おそらく今回の事件の中で生まれた言葉だと思います」
――代理体罰をどう考える?
「山形市の事件の詳細がわかりませんので、一般論として話します。
まず法律では、他人を道具のように使った場合は、使った者がその行為を行ったものとみなされます。これは民事事件も刑事事件も今回の事件も同じと考えてよいと思います」
――ということは代理体罰の場合も、「教師が体罰を行った」と言える?
「そうですね。拒否できない状況のもと、子どもに命じて平手打ちをさせたのであれば、その教師自身が平手打ちをしたものとみなすことができます。
その平手打ちが体罰に相当するものなら、教師が体罰を振るったと評価できますし、むしろ子どもを巻き込んだ点でより悪質とも言えます」
――平手打ちという行為を強制された「子ども」の責任は?
「子どもの方は、原則として法的な責任を負いません。
もっとも、たとえばですが、教師の指示をいいように解釈して、図に乗って激しい暴力を振るったような場合なら、子どもにも一定の責任が生じることがあります」
「気合い」と称して生徒同士に暴力を振るわせるとは、いったいどういう感性なのだろうか。気合いを入れる必要があるのは、体罰教師とそれを見過ごした関係者の側だろう。