「たい焼き屋さんブチ切れてた」。たい焼き屋さんが店頭に貼った張り紙の写真が添付されたつぶやきが、3万2千回以上(7月24日現在)リツイートされて注目されています。
張り紙には「先日、お客様よりご指摘をいただきました。『他所のお子さんが三色団子のふたを開けて、ペタペタ触っていた。買いたかったがさすがに買えなかった』と。当店では、衛生面も考えまして今後、このような行為を発見した場合、不本意ですが全て買い取っていただきます」などと書かれている。
「このお子さんの将来が心配になるのは私だけでしょうか」と怒りをあらわにするたい焼き屋さん。これに対して、「この張り紙は当然」「買う側としてはこれくらい言ってもらったほうが安心」と言ったコメントが集まっています。
このように子どもが店の商品を触ってしまった場合、親に商品の買取義務はあるのでしょうか。髙橋裕樹弁護士に聞きました。
●親に買取義務はないが、損害賠償義務がある
今回のようなケースは、お子さんをお持ちの方には「あるある話」かもしれません。
「小さいお子さんが、好奇心から売り物を触ってしまうのは仕方がないと思います。先日、娘とパン屋に行ったところ、店に入った直後に、娘がパンダの顔のかたちをしたパンを握りしめてしまい、そのパンだけを買って店を出たことがありました。完全に僕の親としての監督不行き届きだと思いました」
子どもが商品を触った場合、親に買取義務はあるのでしょうか。
「結論としては、親に買取義務はありません。なぜなら、お子さんが三色団子を触ったことにより、親とたい焼き屋の間に売買契約が成立するわけではありませんし、何の契約関係もない親に商品を買い取らせる義務を負わせる法律もないからです。
契約関係がある場合であっても、土地の賃貸借契約終了時の建物買取請求のような例外的な場合しか、買取義務は生じません」
そうなると、親には何の義務もないということですか。
「いえ、親に全く何の責任(義務)も生じないわけではありません。親には、商品を買い取る義務ではなく、商品を棄損させたことに基づく損害賠償義務が生じます。(不法行為に基づく損害賠償責任:民法709条、小さい子供など責任無能力者の監督義務者の責任:民法714条)
損害賠償というと、いくら払うことになりますか。
「基本的には、1本100円の三色団子をベタベタ触ったことで売り物にならなくなってしまったのであれば、100円分の損害が生じていることになりますので、100円を賠償しなければなりません。
食品の販売店には、食品を清潔で衛生的に陳列しなければならず、不潔、異物混入等の等の理由で人の健康を損なうおそれがある食品を陳列してはならない義務があります。(食品衛生法5条、6条4号)そのため、たい焼き屋さんとしても、お子さんがベタベタ触った三色団子をそのまま陳列させ続けることには食品衛生法上の問題が生じます。
また、一般の顧客の側からしても、お子さんの触った三色団子を買いたくないと感じるのがむしろ素直でしょう。そのため、たとえ1本に3つ付いている団子の1つしか触っていないとしても、三色団子1本まるまる売り物にならなくなった(=全損)と考えるべきでしょう」
では親はたい焼き屋に「100円を賠償するから、団子を引き渡して」と言えるのでしょうか。
「結論としては、親はたい焼き屋に対して三色団子の引渡しを求めることは基本的にはできません。上述のとおり、親とたい焼き屋に三色団子の売買契約が成立するわけではありません。たい焼き屋は、お子さんの触った三色団子を親に渡す(親に売る)のか、破棄するのか、さらには自分で食べるのか決める選択権があり、親にはこの選択権はありません。
今回のたい焼き屋は、この選択のうち、親に渡す(親に売る)という選択をしているのですから、たい焼き屋の判断は法的には何ら問題ありません」
賠償したとしても、代わりに商品をもらうということにはならないのですね。
「はい。お子さんが商品を触った場合、商品を開けた場合、商品をこぼしたり壊したりした場合、『大丈夫ですよ。気にしないでください』と、その親に何の請求もしないお店側の対応は、あくまで上質なサービスだと思っていただくべきと思います。
一方、そのようなお子さんの行動を止められなかった親は、自身の監督不行き届きを棚に上げずに、しっかりと法的・道徳的な責任を取る対応を心掛けるべきでしょう」