スタジオジブリの新作映画「風立ちぬ」の公開が7月20日に迫っている。5年ぶりの宮崎駿監督作品で、主題歌に松任谷由美さん、主役の声優に「ヱヴァンゲリヲン」の庵野秀明監督を起用するなど、話題も満載だ。戦時中に零戦を設計した堀越二郎という「実在の人物」をモデルにした点も、この作品の特徴で、ジブリとしては初めての試みだという。
そうはいっても、伝記というよりは、その人物のプロフィールを元にした「おはなし」という表現の方が近いようだ。鈴木敏夫プロデューサーは新作発表の記者会見で「人柄はどうだったのかという部分については、宮崎駿のオリジナル」と話している。また、宮崎監督も「実在した堀越二郎と同時代に生きた文学者堀辰雄をごちゃまぜにして、ひとりの主人公“二郎”に仕立てている」と企画書に記している。
ジブリ側も作品化に際しては配慮したようで、故人の堀越さんの代わりに、息子さんに了解をとったという。このように実際のモデルがいる作品を世に出す場合、法的にはどんなことに気をつけるべきだろうか。「モデル」となった人物や家族などから、実際に訴えられたケースはあるのだろうか。林朋寛弁護士に聞いた。
●作品が名誉毀損やプライバシー侵害にあたると、損害賠償や公開差止が認められうる
「実在の人物をモデルに映画などを製作する場合、そのモデルの名誉(社会的評価)やプライバシー(一般に知られたくない私生活に関する事実)等を侵害していないかなどが問題となります。
場合によっては、損害賠償や公表の差止請求といった紛争に発展するおそれがあります。たとえモデルとなった人物についての描写が創作であっても、観た人からすると事実であると思われてしまう可能性があるためです。
名誉権等の侵害とならないようには、一般の人が作品全体をフィクションと受け取るか、真実だと受け取る部分がどの程度あるか、といった点などについて、注意して製作すべきです」
――実際に問題になったケースはあるのか?
「小説のモデルとなった女性が出版の差止を求めた『石に泳ぐ魚』事件では、女性の名誉毀損やプライバシー侵害が認められ、出版が差し止められました。
一方、映画『エロス+虐殺』事件では、プライバシー等の侵害を理由として、映画の上映禁止の仮処分の申立が行われましたが、こちらは内容が『公知のもの』だとして、差し止めは却下されました」
――対象がすでに亡くなった人の場合でも、同じような配慮が必要?
「故人をモデルにする場合は、ご遺族のプライバシー侵害等が問題になります。一般の人からすればすぐにフィクションと分かり、事実と受け取られないような内容のものであれば、侵害とならないでしょう。それでも紛争予防のためには、ご遺族にあらかじめ了解を取るなどの配慮をするのが適切だと思います」