アメリカ・ワシントン州で2009年~11年、末期ガンの患者40人が自ら望んで、医師に致死量の薬を処方してもらっていたことがこのほど、米医学誌掲載の論文でわかった。そのうち24人が実際に、医師から処方を受けた薬を使って亡くなったという。
このように、死ぬ間際の人が意図的に死期を早めることを「安楽死」や「尊厳死」などと呼ぶ。同州では法律上の権利として「尊厳死法」で認められている。
日本でも「尊厳死法案」を国会へ提出しようとする計画がある。ただ、日本の法案は、末期がんの患者などが「延命措置をせず、自然死を選ぶ」という内容で、現在ワシントン州で行われているような「積極的安楽死」とは大きな差があるようだ。
人のいのちに関わる大事な話にもかかわらず、「尊厳死」をめぐる議論が日本社会に浸透しているとはとうてい言えない。法案の内容や日本での議論について、医療関係の法律問題にくわしい古賀克重弁護士に解説してもらった。
●「尊厳死」ができるのは、病気が治る可能性がなく、死期も近い人に限定
――法案で示されている「尊厳死」とは、具体的にはどんな行為?
「『尊厳死法案』と一口に言いますが、実は議員立法案から各団体案まで、様々なものが提案されています。議員連盟の中でも『延命措置を新しく始めないこと(不開始)に限定する』という考えと、『不開始にくわえ、既に開始されている延命措置の中止も認める』という考えに、意見が分かれています」
――尊厳死が認められるのは、どんな状態になった人?
「対象は、終末期にあるすべての患者です。『終末期』とは、どんな治療を受けても病気が回復する可能性がなく、かつ、死期が間近だと判定された状態のことをいいます。ただしその判定を、誰がどのような手続で行うかについては、まだ議論が分かれています」
——そもそも、いまなぜ尊厳死法が必要なのか?
「いくら患者が『自分の死期は自分で決めたい。意に沿わない治療をされたくない』と言っても、それを実現するためには、医師の協力が必要です。医師の協力を得るためには『遺族とのトラブルや刑事罰・行政罰を確実に回避できる』と保証した方が確実です。
つまり、医療機関や医師の免責条件を法律で明確に決めることが、終末期の医療において患者の意思を尊重するために必要という考え方もあるわけです」
――尊厳死には批判もあるようだが?
「そうですね。そもそも患者の権利全般について法律がないのに、終末期という極限の場面だけをくくり出すのは、患者の権利擁護として不十分だという批判があります。また、患者の意思確認が不透明なケースについて、死を強制することになりかねないという倫理上の問題も指摘されています」
どうやら日本での議論は、まだまだ固まっていないようだ。古賀弁護士も「国会はもちろんですが、社会全体でも十分に時間をかけて議論していく必要があるのではないでしょうか」と話していた。