東日本を中心に展開し、ヘルシーな「家庭料理」がウリの某和食チェーン店。一般的な定食だけでなく、豊富なアラカルトメニューや手頃な価格で「行列ができる定食屋」として知られている。そんな店に、招かれざる客の一団が現れたのは、ある土曜日のことだった。
その日の12時ごろ、アラフォー主婦のC子さんは、JR山手線駅前の店舗を訪れた。案内された席のすぐ近くには、アルコールで顔を真っ赤にした20代〜50代の男性6人グループが、ビールやつまみをテーブルいっぱいに並べ、席に突っ伏すなど「できあがった」状態で宴会をしていた。仕事の内容を大声で話すため、公務員であることがわかった。
「お店の外には10人以上が並び、店内の客たちも、大声で騒ぐ酔っ払いを迷惑そうに見ていました。店員さんは何度も、席から空いた皿を片付けるなど『迷惑アピール』をしていましたが、6人はまるで夜の宴会のノリで、周りのことなどお構いなしという感じでしたね」(C子さん)
こんなランチタイムの宴会は、あまりにも非常識なのではないだろうか。C子さんは「お店が迷惑な客を追い出すことって、できないのでしょうか?」と疑問を口にする。
●迷惑な客を退店させても問題ない
「結論的に言えば、お店は、宴会をしていたグループ客を退店させることができるでしょう」
食品業界や飲食店の顧問を務めるなど、飲食業界にくわしい石崎冬貴弁護士の答えは明快だ。
「まず簡単に、それぞれの言い分を整理してみます。宴会をしていたグループとしては『客として入店し、お酒を含めて注文できるものを注文して、飲み食いをしていただけ。何の問題があるのか』と言うところでしょう。
一方で、C子さんやお店の側が『彼らを退店させたい』という気持ちになるのも分かります。お昼の混雑時に長時間居座った上、泥酔状態で他のお客さんに不快な思いをさせているのですから。また、公務員が軽々しく外で仕事の話をしていいのかと、周りで聞いているほうも心配になるはずです」
では、店が客を退店させることは、法的に問題ないのだろうか。
「誰を客として入店させるかというのは、基本的にはお店の判断になります。極端に言えば、お店としては、単に『自分の店の客層と違う』ということだけで、入店を拒否することもできます。
また、すでに入店させたお客さんであっても、今回のように、通常のお店の利用として想定される範囲を超えて、長時間居座ったり、周りに迷惑をかけるお客さんを退店させることも可能です。
ですから、今回の件も、お店として『退店してもらいたい』と思うのであれば、『法律上は可能』ということになります」
●「お客様は神様」とあぐらをかかないこと
最後に石崎弁護士は、店と客にこんなアドバイスを寄せた。
「とはいえ、お店としても、現実に飲み食いをしてくれている以上、無理やり追い出したり、出入り禁止にするなどの強硬な対応は、ためらわれるはずです。退店を求めた際に、トラブルに発展する可能性もあり得ます。
こうした問題は、法律上どうかというよりも、モラルの問題として考えるべきだと思います。お店としてはまず、周りのお客さんの迷惑になっていることをよく説明すべきでしょう。それによって、そのグループの様子も変わるかもしれません。
また、当然ですが、お客さんとしても、『お客様は神様だ』とあぐらをかくのではなく、周りを見ながら食事を楽しむべきでしょうね」