月100時間以上残業している社員はゼローー深夜の1人勤務「ワンオペ」など、過酷な勤務実態が問題視された牛丼チェーン「すき家」の労働環境問題で、運営会社のゼンショーホールディングスは4月8日、改善状況をチェックした第三者委員会の報告書を公表した。
報告書によると、月100時間以上残業している社員の数が、2014年3月には231人だったが、2015年2月には0人になった。また、社員の平均残業時間も、2014年3月の109時間から、2015年2月には31時間に減少した。
しかし、報告書では「残業時間の改善も、十分であるとは言い難い」など厳しい文言も並び、報告書発表の記者会見では、記者からも「一般常識からすれば、100時間以上の残業をしている人がゼロになったからと言って、職場環境が改善されたとは言えない」と指摘された。
すき家の労働環境は、本当に改善されたのか。労働問題にくわしい波多野進弁護士に聞いた。
●「実際の労働時間と会社が把握している労働時間のズレ」
「ゼンショーに限らず使用者(会社側)全般に言えることですが、一番重要なのは、実際の時間外労働時間と、社内で把握している時間外労働時間とのズレがあるかどうかだと思います」
波多野弁護士はこのように切り出した。
「両者のズレを生じさせないためには、労働時間管理をタイムカードなどで客観的に行うことが大前提となります。
時間外労働を削減できない体制のままで、時間外労働の削減の掛け声ばかりが先行すると、現場では過少申告(タイムカードの出勤時の遅打ち、退勤時の早打ちなど)を余儀なくされますので、労働時間を正確に把握することが非常に重要です。
今回の報告書では『早急にタイムカードなどの導入をすることが必要である』と記載されており、正しい指摘だと思います。
この報告書は、タイムカードを導入していない段階での結果ですから、実際の時間外労働時間とのズレがある可能性が高いと思われます。100時間の時間外労働を行っている従業員はいなくなったという内容の信憑性には、疑問が残ります。
また、昼間のワンオペ(1人勤務)が残っているとのことですが、その休憩時間がどう現場で実際にカウントされているのかも気になります。いつ客が来るのか分からないので、建前の休憩時間があっても、休憩時間としてカウントすべきではないでしょう」
とにかく、労働時間の実態把握が重要ということだ。では、もし100時間以上の時間外労働がなくなれば、問題は解決したといえるのだろうか。
●「人手の確保が必須条件」
波多野弁護士は「100時間以上の時間外労働がなくなっても、過重労働が改善したとは言いがたい」と指摘する。
それはなぜだろうか。
「過労死ラインでは、発症前から遡ること6か月間のどこかで80時間以上の時間外労働が認められれば、脳・心臓疾患の労災認定がなされますので、問題が解消したとは言えません。45時間の時間外労働があれば疲労が蓄積すると言われています。
しかも、『すき家』の場合、深夜労働という負荷の高い業務が避けられません。今回の報告書では、残業60時間以上の過重な業務をしている社員が9%いることが明らかになっています」
では、長時間労働を解消するためのカギとして、何が考えられるのか?
「報告書では『長時間労働を解消する一つの方法として、クルー(バイト)の継続的採用が必要である』としていて、人手の確保という当たり前ですが重要なことをきちんと指摘しています。これが十分に実践されれば、時間外労働は削減できるはずですし、逆にこれがなされなければ、現場での長時間労働は解消されないと思います。
特に飲食業界では、人手の確保ができないと、そのシフトを埋めるために社員が長時間労働を余儀なくされる傾向にあるので、必須条件といえるでしょう」
波多野弁護士はこのように語っていた。
今回の報告書では、社員の労働時間に注目したが、クルーの労働時間の問題も重要だ。報告書では、月間100時間以上の時間外労働はクルーでも大幅に減少(2014年3月の579人が2015年2月は4人)しているようだが、今後どうなるのか、注視すべきだろう。