通勤電車で痴漢にあったので、勇気をもってその場で捕まえた――。そんな女性からの投稿が、弁護士ドットコムの法律相談コーナーにあった。女性は、相手の男性から「お前なんか触るわけない、頭おかしい!」と言われたが、駅員を呼んで引き渡したそうだ。
その後、男性が容疑を認めたことを警察から聞いた。さらに、男性側から弁護士を通じて、示談金を受け取って、被害届を取り下げてほしいと連絡があったそうだ。男性の通勤ルートを変えることなども提案してきたという。
女性は痴漢行為で怖い思いや嫌な思いをしたことから、そう簡単に許せないと考えている。いっぽうで、どんな対応をすればよいか頭を悩ませている。痴漢の被害者の対応には、どのような選択肢があるだろうか。浮田美穂弁護士に聞いた。
●「迷惑防止条例違反」か「強制わいせつ罪」か
「一口に痴漢といっても、態様によって、都道府県が制定している、いわゆる『迷惑防止条例』に違反する場合と、刑法が定める『強制わいせつ罪(刑法176条)』にあたる場合があります。どちらになるかによって、刑が異なります」
両者の違いはどのようなものだろうか。
「必ずしも正確な説明ではないことを最初に断っておきますが、分かりやすく言えば、着衣の上から触る場合は『迷惑防止条例違反』、着衣の中に手を入れて触れば『強制わいせつ罪』に該当する可能性があります。
もちろん、強制わいせつ罪のほうがひどい態様での痴漢行為ですから、刑も重いです。強制わいせつ罪に該当する場合、法定刑は6か月以上10年以下の懲役と定められています。これに対し、迷惑防止条例でしたら、東京都の場合は、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金です。常習として行っていた場合は、1年以下の懲役または100万円以下の罰金とされています」
今回の女性の被害は、書き込みからでは、どちらにあたるかは分からないが、どんな対応が考えられるのだろう。
「痴漢行為の態様がひどい場合には、被害者の対応としては、強制わいせつ罪として捜査をしてもらうように求めることができます。強制わいせつ罪は告訴が必要な『親告罪』ですから、強制わいせつ罪として告訴することが考えられます。
その場合、和解金を受け取って示談をし、告訴を取り下げれば、相手の男性が起訴されることはありません。もし、示談となれば、処罰を求めることはできなくなります」
●示談しなかった場合はどうなる?
迷惑防止条例違反の場合はどうだろうか。
「迷惑防止条例違反については、親告罪ではありませんが、和解金を受け取り、示談が成立すれば、処罰される可能性は極めて低いでしょうね」
もし、示談せずに男性の刑事手続きが進んだ場合でも、女性は慰謝料を受け取ることはできるのだろうか。
「慰謝料については、刑事手続きが終わってからでも、支払を求めることができます。処罰を望む場合は、和解金を受け取らないという対応をするのが一般的です」
浮田弁護士はこのように話していた。痴漢と聞くと、迷惑防止条例をイメージしがちだが、強制わいせつ罪になる可能性もあるようだ。被害にあったら、自分がされたことをきちんと警察などに話すことが重要になるといえるだろう。