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生い立ちを振り返り、親に感謝の手紙――10歳を祝う「2分の1成人式」は必要か?
写真はイメージ

生い立ちを振り返り、親に感謝の手紙――10歳を祝う「2分の1成人式」は必要か?

20歳の「成人式」ではなく、その半分の10歳(小学4年生)になった児童が、生い立ちを振り返ったり、親に感謝の手紙を渡したりする「2分の1成人式」が、全国各地の小学校で行われている。

ベネッセ教育情報サイトが2012年12月に実施した調査によると、「2分の1成人式」に子どもと参加した親の満足度はじつに88%にのぼった。「子どもの成長を実感して、感動した」「普段はなかなか言えない感謝の気持ちを伝え合うことで、家族の絆が強まった」など、評価する声があがっている。

ただ一方で、否定的な意見も存在している。名古屋大学の内田良准教授は「Yahoo!ニュース個人」に掲載した記事の中で、「きっと学校側は、『(離婚も再婚もなく)実父母が子どもをずっと大事に育ててきたはず』という前提を暗黙にもっているのだろう」と述べ、つらい過去をもった被虐待児などへのケアが足りないと批判している。

また、過去に虐待を受けた経験があるというブロガーは「自分の生い立ちを振り返る(写真、名前の由来)…これは辛い。果てしなく辛い。今まで親の欲求に応え続けた人生を振り返らなくてはならない。しかも適度に美談っぽくしろという圧力がかかる。どうしようもない現実を、うまくコピペして、親が感動できるものにしなければならない。想像しただけで、もはや罰ゲーム」とブログにつづっている。

「2分の1成人式」をどう考えればいいのだろうか。学習塾での勤務経験があり、教育問題にくわしい多田猛弁護士に聞いた。

●「自由に自分の考えを述べる場ならば、問題ない」

法的問題はほとんどないと思われ、弁護士が意見を申すようなことではないと思っておりますが、教育にくわしい弁護士としてコメントを求められましたので、僭越ながらお話させていただきます。

「2分の1成人式」については、保護者の満足度の高いイベントであると聞いておりまして、多くの小学校で広まっている現状からすれば、その開催自体を否定する必要はないと思います。むしろ、保護者の支持があるイベントが広まることは、歓迎すべきことではないでしょうか。

ただ、被虐待児や親のいない子どもたちへの配慮が必要とのご指摘があることは、ごもっともで、私もそのように思います。また、仕事で忙しく式に参加できない保護者も多くいらっしゃるでしょうし、児童の立場で言えば、他の子どものお母さん、お父さんは出席しているのに、自分の親だけ出席してもらえないことに寂しい思いをする児童もいるでしょう。

しかし、この種のイベントには、そのようなことはつきもので、例えば母の日や父の日に、お母さん、お父さんへの感謝の手紙や似顔絵を描きましょうというイベントもよくありますよね。その場合には、お母さん、お父さんがいない子どもに対してのケアが必要です。私も、母子家庭で育ってきたので、父の日には「ほんの少しだけ」辛い思いをした経験がありますが、いつも学校の先生が、かわりにお婆ちゃんとかお母さんにしていいんだからね、とフォローしてくれたので、こういうイベントの存在自体に対して不満を持ったことはありませんでした。ですから、大切なことは、「不公平なイベントをやらない」ということではなく、イベントを行うに際して、児童一人一人に丁寧なケアをしてあげるということでしょう。

保護者への配慮も必要で、例えば共働きなどで忙しくて来られない方に事後的なケアをすることも必要でしょう。最近は、学校公開も多く、「そのたびに仕事を休んだり遅刻・早退したりしないといけない」という不満を持った保護者がいらっしゃるようです。「イベント過多」になって、保護者への負担が大きくなりすぎないような配慮も必要でしょう。

「子どもたちに対する感謝の押しつけではないか」という議論もあるようです。確かに、10歳程度の子どもたちに感謝を押しつけるという画一的な教育になってしまえば問題でしょうが、式を契機として、子どもたちに自由に自分の考えを述べてもらうのであれば、問題ないのではないでしょうか。

むしろ、最近、親が忙しくて、親と子どもの家での対話の時間が少なくなっていると言われています。式を契機に、子から親へ、親から子へ、普段は恥ずかしくて言えないような本音や感謝の気持ちを率直に伝えられる、いい機会だと思います。

子どもたちも、卒業するときには、よく文集で将来の夢などを書きますが、長い小学校生活の中間地点として、10歳のときに、自分の夢を書いてみて、卒業するとき、また大人になったときに振り返ってみるというのも、子どもたち一人一人の素敵な財産になるかもしれませんね。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

多田 猛
多田 猛(ただ たけし)弁護士 弁護士法人Next
弁護士法人Next 代表弁護士。第二東京弁護士会・子どもの権利に関する委員会 委員。ロースクールと法曹の未来を創る会 事務局次長。ベンチャー企業・中小企業を中心とした企業法務、子ども・家庭の法律問題をはじめ、幅広い分野で活躍。

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