埼玉県所沢市で2月15日、「小中学校教室へのエアコン設置」をめぐる住民投票が実施される。航空自衛隊の入間基地に近く、航空機が多く飛来する所沢市には、密閉性の高い防音校舎が29校ある。今回の住民投票では「それらの防音校舎にエアコンを導入するかどうか」が問われている。
もともとこれらの校舎には、エアコンの設置計画があった。しかし、藤本正人市長は、2011年の東日本大震災や原発事故などをきっかけとして計画を撤回。「エアコン設置工事の市負担は30億円にのぼる」などと主張し、設置に反対している。
一方で、住民投票を求めた児童・生徒の保護者らは「(室温調整のため)窓を開けたら防音の役目が果たせない」「騒音の低い学校と同じ程度の学習環境を」などと主張している。
保護者らは2014年に署名を集め、エアコンを導入するかどうかの「住民投票条例」を作るよう、市長に直接請求した。藤本市長は住民投票に反対する意見書を提出したが、市議会が2014年12月に条例案を可決し、住民投票の実施が決まった。
今回、所沢市で行われる「住民投票」とは、そもそもどういうものなのだろうか。行政問題にくわしい林朋寛弁護士に聞いた。
●個別のテーマについての「住民投票条例」
「住民投票が行われる場合は、全部で4通りあります。
(1)特定の地方公共団体にだけ適用される特別法を制定する場合に、憲法95条に基づいて行われる住民投票
(2)地方議会の解散や、知事・市町村長などの解職請求があった場合の、地方自治法に基づく住民投票
(3)市町村合併の際に、合併特例法に基づいて行われる住民投票
(4)地方公共団体の定めた住民投票条例に基づく住民投票」
今回はどれにあたるのか。
「今回の住民投票は、(4)の地方公共団体の定めた住民投票条例に基づく住民投票です。
『住民投票条例』に基づく住民投票は、個別のテーマについて投票を実施する条例もありますし、テーマを条例で決めていない一般的な住民投票条例の場合もあります。
今回の所沢市の住民投票は『防音校舎の除湿工事(冷房工事)の計画的な実施に関する住民投票条例』という条例に基づいて実施されます」
●住民投票をしても「拘束力」がない?
今回、住民投票の結果が出たら、その通りになるのだろうか?
「条例に基づく住民投票の結果については、地方公共団体の長や議会を法的に拘束するものとは考えられていません。
たとえば、那覇地裁平成12年5月9日判決は、沖縄県名護市のヘリポート基地建設について実施された住民投票の法的拘束力を否定しています」
拘束力がないなら、住民投票の結果はどのような扱いを受けるのだろうか。
「住民投票条例では、首長などに投票結果を尊重する義務があるのが通常です。所沢市の場合も、投票結果を市長・市議会は尊重しなければいけません。投票結果の過半数が、投票資格者の3分の1を超える場合は、その重みを斟酌しなければならないとされています」
林弁護士はこのように指摘していた。