大音量の音楽でダンスに興じる人々。薄暗いホール。照明があたり、ときおり見える顔には恍惚の表情が浮かんでいる。DJが流す音楽に合わせて客が踊る「クラブ」。最近、警察の摘発が相次いでいるが、「ダンスを規制するのは時代錯誤」として法改正を求める動きが広がっている。
クラブ事情に詳しい齋藤貴弘弁護士によると、事の発端となった場所は大阪のアメリカ村。繁華街と住宅地が隣接している地域で、騒音被害や客同士の喧嘩などで近隣住民から多くの苦情が入り、警察が取り締まりに乗り出したという。以来、クラブの摘発が全国的に広がった。
摘発されたクラブ経営者らの逮捕容疑は無許可でクラブを営業し、客に「ダンスをさせた」というものだ。齋藤弁護士によると、「ダンスをさせる」営業は、キャバレーやホストクラブなどの営業を取り締まる風営法で規制される。営業するには、公安委員会の許可が必要だ。
●「ダンスをさせる」飲食店は深夜0時までしか営業できない
風営法では、ただの飲食店ならば24時間営業も可能だが、「ダンスをさせる」飲食店となると、営業時間が深夜0時(地域によっては1時)までに制限されることになる。通常クラブに客が入り始めるのは23時前後だから、風営法に従うと営業が成り立たなくなる。そのため届出をしないで営業している店が多いのだが、これまでは黙認されてきたという。
「踊っているだけなのに何が問題なの」「なんでクラブが風俗営業なんだろう」――降ってわいたようなクラブ摘発に、経営者や客からは疑問や懸念の声が噴出した。なかでも、よく聞かれるのは「風営法のダンスに関する規制は時代遅れだから、法律を改正するべきだ」という意見だ。
このような状況を受け、音楽家の坂本龍一さんらが呼びかけ人となり、風営法改正の署名を呼び掛ける「Let’s Dance署名推進委員会」が昨年5月に発足。「風営法の規制対象からダンスを削除する」ことなどを求めている。これまで寄せられた署名は、11万5000件を超える。
●「クラブは文化が生まれる土壌になっている」
齋藤弁護士は、風営法で「ダンスをさせる」営業が規制されている現状について「憲法で保障された表現の自由や営業の自由を侵害するおそれがある」と指摘、法改正を訴える。
風営法が制定された1948年当時は「ダンス」といえば男女が出会うためのツールという側面が強かったが、半世紀以上たった今はむしろ、踊ること自体が目的であり、自己表現の一つになっているというわけだ。
「クラブは色々な表現の場。音楽、ダンス、ファッション、コンピューターグラフィックなどの映像。そういったものが日々進化し、一つの文化として生まれる土壌となっている」と齋藤弁護士は指摘している。
「今では、中学校の授業でダンスが必修科目になった。風営法ができた当時とは時代背景が違う。ダンスは、十分に市民権が得られており、風俗営業として規制の対象にすべきような業態ではない。風営法から外すべき」
齋藤弁護士を始め、クラブの規制に疑問を感じる人々は、風営法改正を目指し国会議員に働きかけている。「集まった署名を請願署名として、国会に提出する予定。並行して、超党派の議員連盟で議員立法を進めていく流れにしたい」と語っている。