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岡口弁護団「勝ったと思った」から一転…読み上げに2時間超、「罷免判決」に書かれていたこと<弾劾裁判詳報>
罷免された岡口元裁判官(前列右)

岡口弁護団「勝ったと思った」から一転…読み上げに2時間超、「罷免判決」に書かれていたこと<弾劾裁判詳報>

裁判官弾劾裁判所は4月3日、仙台高裁の岡口基一裁判官に対し、「裁判官としての威信を著しく失うべき非行があった」(裁判官弾劾法2条2項)として、罷免判決を宣告した。罷免判決は8例目。

罷免するかどうかは、衆参7人ずつの国会議員計14人から構成される裁判員の評議で決まる。

判決後、記者会見を開いた船田元裁判長(衆・自民)によると、評議は「議論百出」だったといい、投票数は非公表ながら「ギリギリだったということは申し上げられる」。

裁判官弾劾法によると、罷免には評議に出席した議員の3分の2以上の賛成が必要(同法31条2項)。今回は12人での評議だったため、8人以上が賛成したことになる。「ギリギリ」ということは、反対票が3〜4人いた可能性がある。

一方で、船田裁判長は判決について、「どこに出しても問題がない、自信がある結論だと理解している」とコメント。弁護士でもある主任裁判員の階猛第二代理裁判長(衆・立憲)が主に起案したという。

船田裁判長はこの日の法廷で、刑事裁判の「死刑判決」などのように主文を後回しにし、2時間超かけて判決文を読み上げた。いったいどんな内容だったのか、詳報したい。

※本稿は判決要旨をもとにしているが、法廷で読み上げられた判決書と大きな相違はないと判断した。

会見する船田裁判長(右)と階第二代理裁判長

●事実認定、弁護側の主張をことごとく採用

岡口元裁判官は、裁判当事者への不適切なネット投稿など、13個の行為について訴追された。 判決はまず、これらについて事実認定をしている。

たとえば、女子高生が殺害された事件に関して、「首を絞められて苦しむ女性の姿に性的興奮を覚える性癖を持った男」などと判決文を紹介した投稿について。

判決は、岡口元裁判官がリンクを貼った裁判所ウェブサイトの「事案の概要」欄(削除済み)に同種の文言が書かれていた可能性が高いことなどから、「フォロワーの性的好奇心に訴えかけ、興味本位で判決を読ませようとする意図があった」旨の裁判官訴追委員会側の主張を退けている。

また、同事件の遺族が「洗脳」されているとする投稿についても、弁護側の主張を採用し、発達障害の影響などから、「洗脳」という言葉をそれほどネガティブな意味で使っていたわけではなく、遺族の感情を傷つけることを予期したものではなかったなどと認定。「遺族の行動に疑問を呈した投稿であったとまでは、認めることはできない」としている。

事実認定では、この調子で訴追事由となった各行為について、おおむね弁護側の主張を採用し、訴追委側の主張を排斥した。

弁護側によると、「発達障害の部分は、主張が通るかどうか不安があった」そうだが、判決後の会見で「ほぼ主張が認められた」「勝ったと思った」と語るほど、事実認定では弁護側の主張が採用された。

●訴追事由13個を2つの行為群へ 「時効」は認めず

判決は続いて、裁判の争点が、(1)13個の行為の一体性、(2)一連の行為が罷免に相当するか(=裁判官としての威信を著しく失うべき非行といえるか)——であるとして、それぞれを検討していく。

3年が経過した行為は訴追の対象にならないが(同法12条)、13個の行為のうち4つは、訴追された段階で「時効」を迎えていた。

この点について、訴追委は13個の行為すべてを一体のものとして判断すべきと主張していた。一体の行為であれば、最後の行為が「時効」の起算点になるからだ。

判決は、行為の一体性について、「当該数個の行為を眺めた場合に、これらが1つのまとまりある行為群として、その行為主体の全体行為体系の中で、他から識別しうるだけの特性を有しているかどうか」で判断すべきと判示。

13個の行為のうち、女子高生殺害事件に関する投稿(=刑事事件投稿)と、犬の所有権をめぐる裁判についての投稿(=犬事件投稿)は、訴追状でも別項目で論じられているなどとして、13個を一体として考えるべきとする訴追委の主張を退けた。

そのうえで、10個ある刑事事件投稿と、3個ある犬事件投稿をそれぞれ検討。因果関係などの諸要素から、刑事事件投稿については1個を除外した計9個、犬事件投稿については3個すべてを、それぞれまとまりある「行為群」と認定し、「時効」の問題はないとした。

●非行の度合いを二段階で審査

続いて判決は、争点(2)の「裁判官としての威信を著しく失うべき非行」かを検討。刑事事件投稿と犬事件ぞれぞれの行為群について、(a)非行に当たるか、(b)「著しい」非行に当たるかという二段階で審査している。

刑事事件投稿については、事実認定通り、岡口元裁判官に「遺族を傷つける意図をもって投稿したわけではない」としつつ、個別に見ても、全体的に見ても、投稿などによって遺族を傷つけたと判断。「結果として何度も執拗に遺族を傷つけることになった」などとして、非行に当たると認定した。

犬事件投稿についても、「原告による民事訴訟提起行為を一方的に不当とする認識ないし評価を示したとまでは認められず、(編注:原告が匿名のため)その社会的評価を不当におとしめたとも言えない」としつつ、全体的に見れば当事者を傷つけたことや、他の表現を選び得たとして、非行に当たると認定した。

●遺族への「執拗かつ反復」投稿を問題視

判決はさらに、非行に当たるそれぞれの行為群について、「著しい非行」に当たるかを検討する。

まず、「著しい」の定義について、「国民の信託に対する背反」が認められるかどうかであると判示。また、訴追時点で判明していた事実等によって判断すべきとして、岡口元裁判官が、訴追後に裁判官の再任希望を出さなかったことは考慮すべきでないとした。

そのうえで、刑事事件投稿の行為群について、「少数者の基本的人権を保障する『憲法の番人』の役割からはかけ離れたもの」だとして、国民の信託に反すると認定した。

一方で、裁判官の表現の自由についても言及。SNSの特性から意図に反して他者を傷つけることは往々にしてあり、インターネットで20年以上、法律情報を発信していた岡口元裁判官なら、そのことは熟知していたはずと指摘。悪意がなかったとしても、「裁判官による表現の自由の行使手段として甚だ問題があったと言わざるを得ない」と批判した。

他方、「国家権力に対し、批判的見地から物を申すことについて萎縮するような状況を招くことのないよう細心の注意を払うべき」として、裁判官としての表現の自由を尊重するため、行為群にある9個の行為のうち、東京高裁を批判する投稿と、訴追委を批判する投稿の計2個を除外すべきとした。

だが、残りの7個を評価しても、「執拗かつ反復して犯罪被害者の遺族の心情を傷つけ、結果として遺族の個人の尊厳やその尊厳にふさわしい処遇を保障される権利及び名誉感情を侵害し、平穏な生活を送ることを妨げたことは否定できない」などとして、国民の信託に反した「著しい非行」と認定し、罷免判決を宣告した。

なお、犬事件投稿の行為群についても検討はされており、当事者を傷つけてはいるものの、悪質性は低いとして、「著しい」とまでは認めなかった。

●「裁判員の良識」「弾劾裁判所の裁量」

判決では、このほか弁護側から出た諸々の主張についても、判断を下している。

▼罷免になると少なくとも5年間、弁護士にもなれなくなる。弁護側は弁護士会の除名処分になるような事案との釣り合いがとれていないと主張。これに対し、憲法上、裁判官は弁護士などより身分が厚く保護されており、高い品位が求められるため、「弁護士の懲戒事由と必ずしも同列に論じる必要はない」と判断した。

▼過去の罷免事例の多くは犯罪にかかわるもので、刑事事件に発展していない今回のケースで罷免とするには均衡を欠くという主張については、「SNSによる投稿が訴追事由を構成する主たる要素となっており、過去には例を見ない事案」であることを理由に、過去の事案を比較の対象にはできないとした。

▼罷免すべきと判断すれば、訴追請求することを義務付けられている最高裁が(裁判官弾劾法15条3項)、訴追しなかったという指摘については、法律上、最高裁からの訴追請求が罷免の絶対条件とはされていないとして退けた。

▼「司法に対する国民の信頼を害した」事実が立証されていないという主張については、「『司法に対する国民の信頼』を害したかどうかの認定は、その時々の弾劾裁判所を構成する裁判員の良識に依存する」「時の弾劾裁判所の裁量に属する項目であって、通常の要証事実のような立証責任は問題にならない」とした。

●弁護団「想定外」「萎縮効果は大きい」

会見する岡口元裁判官側の弁護士ら

判決を受けて、弁護団は「罷免になるなら、目的や動機の部分で悪意が認められるパターンを想定していた」と述べ、想定外の結果だったことを明かした。

そのうえで、「悪意があるから罷免ならまだ良かった。悪意がなくても、相手の感情を害すれば罷免という前例ができてしまったので、裁判官がSNSなどで発信することについての萎縮効果は大きくなるだろう」とコメントした。

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