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「人権意識が強くなると番組がつまらなくなる」フジテレビ番審委員の発言が炎上、有識者「メディアの役割を理解していない」
フジテレビ(kash* / PIXTA)

「人権意識が強くなると番組がつまらなくなる」フジテレビ番審委員の発言が炎上、有識者「メディアの役割を理解していない」

フジテレビ「番組審議会」の議事録が波紋を広げている。今年1月に「テレビと人権」をテーマに審議された会議で、委員からは「人権意識が強くなりすぎると良い表現ができなくなり、番組がつまらなくなる」などの発言があったという。

これを受けて、SNSでは「出演者の人権を守らなくてどうする」「人権と面白さは関係ない」など、番組審議会に対する批判が起きた。フジテレビの番組出演中に亡くなった女子プロレスラー、木村花さんの母で、元女子プロレスラーの木村響子さんは自身のXアカウントで「だから命が奪われる」などと批判している。

こうした番組審議会委員の姿勢は、世界でクローズアップされている「人権問題」の観点から、どのようにとらえたらよいのだろうか。国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ事務局長の小川隆太郎弁護士に聞いた。

⚫︎番審委員「人権をうたえばうたう程、堅苦しい箱に」

問題となっているフジテレビの番組審議会では、次のような発言があった。

・人権はもちろん大切だが、人権をうたえばうたう程、テレビだけが宙に浮いてしまって堅苦しい箱になってしまう。

・人権意識が強くなりすぎると良い表現ができなくなり、テレビ局の挑戦も締め付けられ、番組がつまらなくなり、世の中から見捨てられてしまうのではないか。

一方で、次のような発言もみられた。

・視聴者、出演者、取材対象者だけでなく、テレビの番組制作に携わる人々の人権にも目を向けてほしい。自身の人権を守られていないスタッフが、テレビの向こうの人の人権に敏感になれるはずがない

・関東大震災では誤報が人々の思想を先導し、誤った思想に基づいて大勢の命が奪われたという悲惨な過去がある。その過去は絶対忘れてはならない。テレビ報道はSNSがどうであろうと、真実しか放送しないということを固く守ってもらいたい。

この審議会に参加していた委員は、委員長で弁護士の但木敬一氏、副委員長で早稲田大学教授の岡室美奈子氏のほか、脚本家の井上由美子氏、放送作家の小山薫堂氏、ノンフィクション作家の最相葉月氏、明治大学教授の齋藤孝氏、大相撲解説者の舞の海秀平氏、国際政治学者の三浦瑠麗氏ら。

日本民間放送連盟の公式サイトによると、番組審議会は「放送番組の適正を図るために外部有識者の声を聴く場」として、放送局が設置する。番組審議会は、議論をふまえて答申や意見をとりまとめ、放送局はそれを尊重して必要な措置を講じるという。

⚫︎「委員の発言は世間からズレている」

「議事録内容からすると、フジテレビの審議会委員の中には、メディアの社会的役割や責任について理解していない不適任者が含まれてしまっていることが明らかです」

番組審議会の議事録について、小川弁護士は厳しく批判する。その理由を次のように述べる。

「メディアは、ただの営利企業ではありません。一般的な企業には人権尊重責任が求められますが、メディアの場合は、さらに一歩踏み込んで、権力を監視し、人権や民主主義の守り手としての役割があります。

もちろん娯楽番組もあっていいでしょうし、クリエイターの『表現の自由』は最大限尊重されるべきですが、メディアの本来の役割や使命と矛盾するものであってはいけません。

いじめや差別を助長し、他者の人権をないがしろにする『笑い』は、メディアとして許容してはいけないし、視聴者にウケることもありません。問題発言をおこなっている委員の感覚は、明らかに世間からもズレていると感じます」

⚫︎「番審はメディア本来の役割という視点を」

では、放送局への影響力が大きい番組審議会は、どのようにあるべきなのだろうか。

「まず『世の中』を馬鹿にするのをやめて、今の時代、視聴者がどのような情報をテレビに対して本当に求めているのかを真剣に考えるべきだと思います。

テレビ離れが進んでいるのは、テレビという媒体の問題や、番組がお行儀が良すぎるからではなく、多くの番組では、政府やスポンサーの大企業に対して萎縮ないし忖度して、その記者会見や広報文書の『建前』をそのまま流すだけで、一般市民の立場からの批判的・専門的な検討や、政府や大企業がむしろ公開したくないと考える『本音』(人権問題など『不都合な真実』)についての独自取材に基づいた調査報道など、付加価値のある情報が提供されることが少ないからではないでしょうか。

最近は『ビジネスと人権』が日本企業でも実践されるようになり、若者だけでなくビジネスパーソンの人権感覚も高まっています。

番組審議会の役割が放送番組の適正を図ることならば、制作側の過度な視聴率至上主義・スポンサー至上主義を抑え、メディア本来の社会的役割や使命の観点から、放送番組の取材・製作・報道過程においてステークホルダー(出演者、番組スタッフ、下請会社、視聴者など)の人権が尊重されているか、番組内容が権力から独立し、権力を監視し、市民の知る権利に応えるものになっているか、放送局の報道全体としてどうすれば日本・世界の人権や民主主義を保護・促進していけるか、といったことが議論されるべきでしょう」

⚫︎「国境を超えた人権問題の調査・報道を」

今メディアに求められる役割とは。

「パレスチナやウクライナ、ミャンマーなど、世界各地でさまざまな人権問題が起きていますが、政治的な背景を持つことも少なくなく、検閲や報道規制がされたり、SNSなどではAIを用いた本格的な『フェイクニュース』が拡散されたりする中で、信頼できる情報媒体の重要性が増しています。

また、若者を中心に今、世界では人権問題や気候変動問題に対する社会的関心が高まっています。

メディアには、そうした市民の関心に応え、政治的に独立した立場から、政府や大企業などあらゆる権力を監視し、社会的に立場の弱い人権問題の被害者の声を届けることで、市民の知る権利に奉仕するという社会的役割を果たすことが求められています。

権威主義が広がる世界において、メディアには人権と民主主義の守り手としての使命があります。日本の『報道の自由』は、世界的ランキング(国境なき記者団発表)で180カ国中、68位(2023年)でしたが、それでも北朝鮮や中国、ベトナム、ミャンマーなどに比べれば、比較的『報道の自由』は確保されています。

そうした国々のメディアに代わり、日本のメディアには、それらの国々で起きている人権問題を積極的に調査・報道し、日本やアジア、世界の人々に発信していく国際的な役割を果たす社会的責任があると思います」

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