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「男系男子の継承は心配ない」論客・百地章氏が訴える「女性・女系天皇」の危険性
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

「男系男子の継承は心配ない」論客・百地章氏が訴える「女性・女系天皇」の危険性

遅々として進まなかった安定的な皇位継承に関する議論だったが、昨年(2023年)秋ごろから動きがみられている。同年11月には自民党内で総裁直属機関として「安定的な皇位継承の確保に関する懇談会」が設置され、第1回懇談会を開催。12月には、額賀福志郎衆院議長が今通常国会で議論の場を持ちたいとの意向を示している。

自民党は皇位継承者は男系男子との立場を維持しているが、現在の皇室は次世代の男性皇族が悠仁さまお一人という状態であり、安定性には懸念もある。そのため、女性天皇・女系天皇を容認するべきとの意見がある一方、男系維持派からは根強い反対がある。

その一人、国士舘大学の百地章客員教授は「不易流行という言葉があるとおり、時代とともに変わるものと時代が変わっても変わらないものがある。男系の皇統は変えてはならない」と主張する。(弁護士ドットコムニュース編集部・山口紗貴子)

【インタビューでの百地教授の発言要旨】

・皇室のあり方を考える際によるべき基準は「皇室の伝統」と「憲法」であり、いずれも「男系」を重んじてきた。歴史と憲法を無視した「女性天皇、女系天皇」論には反対

・女系天皇は「万世一系の皇統」を否定する論であり、現在の皇室の廃絶につながる

・旧皇族の男系男子孫を養子として迎えるための皇室典範特例法を制定するべき

●「ようやく旧宮家の男系男子という画期的な案が出てきた」

——直近では2021年12月に政府の有識者会議がまとめた報告書で、皇族数の確保について(1)皇族女子である内親王、女王が結婚後も皇族の身分を保持 (2)皇族の養子縁組を可能とし、皇統に属する男系男子を皇族に復帰させる、の2案を提示しました。この内容をどのように評価していますか

秋篠宮殿下から悠仁親王へと続く男系男子による皇位継承を大前提にしたものであり、私はこの報告書を非常に高く評価しています。

「男系男子を維持する」と明確に言ってはいませんが、男系維持の立場に立っているのは間違いありません。第2案では男系旧皇族の養子案をあげ、もしそれが難しい時には第3の案として直接旧皇族の男子をとまで提案しました。男系維持が一番の中心になっています。

2005年(平成17年)、園部逸夫元最高裁判事が座長代理となりまとめた有識者会議の報告書は「女系天皇、直系優先」との結論を示しました。本来であれば皇室の伝統や憲法をまず考えるべきところ、この報告書では「皇位継承の安定性を第一とする」として、結論ありきの提言でした。

以来16年目にして、ようやく旧宮家の男系男子という画期的な案が出てきました。ですから高く評価しています。

——(1)の皇族女子である内親王、女王が結婚後も皇族の身分を保持する案についてはどう考えていますか。これは女性官家の創設と理解してよいのでしょうか

女性宮家という捉え方は間違いだと思っています。

報告書は「内親王・女王が婚姻後も皇族の身分を保持すること」とだけ表現しており、歴史上、存在したことのない「女性宮家」などという言葉は使っていません。これはあえて避けたのだと考えています。

また報告書では、仮にこの制度を導入した場合でも「その子には皇位継承資格を持たせない」「配偶者と子には皇族の身分を与えない」との考えを示しています。つまり、女性皇族の身分は保持するが女系継承は避けるのが狙いでしょう。このことからも、報告書が男系継承を前提にしたことは明らかです。

——「皇室の伝統や憲法をまず考えるべき」とのことですが、皇室の今後を考える上でどのように議論を進めるべきなのでしょうか

2000年近い歴史と伝統を有する皇室のあり方を考える際、まず拠るべき基準は皇室の伝統と憲法ではないでしょうか。

天皇の系図を見ると分かりますが、神武天皇から始まって126代の現在の天皇に至るまで、天皇は全て男系でした。また皇位の世襲を定めた憲法も男系ないし男系重視と解するのが歴代内閣や有力な憲法学者たちの見方です。

詳細は割愛しますが、男系男子につなげるための皇位継承の大きな危機は過去に何回もありました。8親等から10親等も離れた「傍系」の皇族・宮家によって皇位が継承されたこともあります。このような歴史を辿ると、先人たちが血のにじむような努力をして男系の伝統を守り続けてきたことがわかりますす。現代に生きる私たちもその重みを謙虚に理解するべきではないでしょうか。

2000年にわたって男系で続いている、世界も羨むような日本の皇室です。今に生きる私達はまずこの伝統を大切に受け継ぎそれを後世に伝えていく義務があります。

現在、女性天皇・女系天皇を容認するべきと主張する人々は「直系の重視を」といいます。しかし、それも男系が前提であって、男系でも女系でもいいなどといった単純な議論は間違っています。歴史と伝統に謙虚に向き合う必要が現代人にはあります。

——「男系男子を」と定めた文書など明文化された資料はないのでしょうか

明治以前は不文の憲法があり、天皇が我が国の統治者であり中心であることが認められてきました。日本ではそもそも最も大事なことは書かれないことが多い。一番の大事なところは口頭で伝えるという国柄なのかもしれません。

明治以降はそれを整理し成文化して憲法に明確に示したわけです。

日本国憲法2条には「皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。」としか書いてありません。明治憲法のように男系男子とは書いてないですが、男系を意味することは明らかです。

なぜなら今の憲法は明治憲法を前提にしてできたものだからです。ですから憲法制定以来、政府の見解も今日まで「男系」ないし「男系重視」と一貫しています。憲法制定時の内閣法制局は「皇統は男系により統一することが適当であり、少なくとも女系ということは皇位の世襲の観念の中に含まれていない」との立場を示しています。

集団的自衛権を巡る議論を思い出してください。「我が国は集団的自衛権を保有するけれども行使しない」との従来の政府見解を変えるためにどれだけ苦労したのか。私は賛成の立場で議論しましたが、それだけ政府見解は重いものです。

皇室についても「男系あるいは男系重視」という政府答弁が一貫して続けられてきたわけですから、それを踏まえて考えるべきです。

また有力な憲法学者たちも憲法の「世襲」は男系だと明言しています。

美濃部達吉教授は「皇統は男系に依る」と断言していますし、宮沢俊義教授も「わが国では皇族の身分を持たない者は皇位継承の資格はないが、皇族は必ず男系だ」といっています。また、一橋大学の田上穣治教授、東北大学の小嶋和司教授、京都大学の佐藤幸治教授なども男系説です。

繰り返しになりますが、皇室の伝統は男系です。そして過去の政府見解も男系重視であり、有力な憲法学者たちも男系だと言っている。これを無視して良いのでしょうか。

●「女系天皇は絶対あってはならない」

——女性天皇についてはどう考えますか

安易な女性天皇論への疑問もあります。

歴史的には、10代の女性天皇がおられましたが、すべて未婚か未亡人で、ふさわしい男子が存在しない期間の一時期でした。なぜ未婚か未亡人という前提だったかといえば、女系の誕生を防ぐためです。このことは過去の歴史からわかります。

元明天皇から元正天皇へと続いたことを女系だという人がいますが、それは誤りです。草壁皇子の妃である元明天皇が即位したときは未亡人でしたから、そのお子様が即位したわけではありません。あくまで草壁皇子の子、つまり男系の女子として元正天皇は即位されています。

もし愛子さまが天皇になられたとした場合、将来、女系皇族が誕生する恐れがあります。さらにその方が即位すれば女系天皇ですね。これは絶対にあってはなりません。従って安易な「女性天皇論」に、私は反対です。

7年前(2017年)に全会一致で退位特例法が作られ、秋篠宮さまが皇嗣となられました。また令和2年(2020年)には「立皇嗣の礼」が行われ、今の天皇陛下が「次は秋篠宮さま」だと内外に宣言されました。これは非常に重いものです。ですから愛子天皇はあり得ません。それを無視して簡単に変える、つまり朝令暮改など法治国家として絶対にあってはなりません。

——ただ、それでも次世代が悠仁親王お一人というのはあまりに不安定ではないでしょうか

男性皇族が少ないから女性、女系天皇を容認するべき、という議論の進め方はあまりにも短絡的でおかしいと思います。後で述べるように、旧宮家には沢山の男子がおられるからです。

また、女系派の中には「男系継承は側室制度があったから維持できたが、側室制度のない現代では無理だ」との声もあるようです。確かに側室から誕生された方はたくさんいます。しかし、嫡出の天皇も73代いらっしゃいました。先帝陛下(平成の天皇)まで125代のうち約6割は皇后さまから誕生してるんですよ。

また以前は医療技術も乏しく、夭逝や死産することも避けられませんでした。しかし、現代は医学の進歩によって十分解決できます。お1人でも男子が誕生すれば立派に育つ時代でしょう。不妊治療も発達しています。

また養子制度も、明治以前では普通に行われていました。明治になって皇族が増えすぎ、財政上の理由もあって、養子制度は禁止されましたが、歴史的には、養子が当たり前に行われてきたわけです。ですから、医学の進歩もあり、養子制度を採用して傍系の宮家を常に確保しておけば、それによって安定した皇位継承は実現可能と言えます。

●直系を優先していたら現在の皇室はなかった

——直系による皇位継承は、帝王学や安定性の観点からもメリットが大きいようにも思われます

現在の皇室は光格天皇以来8代、たまたま直系で続いています。初代・神武天皇から13代の成務天皇までは直系が続きましたが、それ以外は複雑な継承を繰り返してきました。7〜8親等から10親等も離れた皇位継承も4回ありました。

複雑になったのは男系を優先させたからです。もし直系を優先していたら、2000年近い伝統を有する皇室は存在しません。後桃園天皇がお子様の欣子(よしこ)内親王ではなく傍系の師仁(もろひと)親王(後の光格天皇)に皇位を譲られたからこそ、現在の皇室があるわけです。

宮家は、皇統の危機に備え、男系男子の皇位継承権者を確保するために存在しました。4つの宮家(伏見宮家、桂宮家、有栖川宮家、閑院宮家)が支柱となり、皇統を支えてきた。そこから3人の天皇(後花園天皇、後西天皇、光格天皇)が誕生しています。

女性天皇、女系天皇を主張する方は「いま現在、女性しかいない。男性は悠仁親王だけだ」といいます。しかし、皇室の歴史と伝統を見れば旧宮家の存在があり、現在も男系の男子孫が沢山いらっしゃることを忘れてはいけません。

●旧宮家の皇籍復帰、法的には?

——報告書では、旧皇族を養子に迎えるとの案も示しました。旧皇族から養子を取るのは門地による差別に当たるのではないか、平等を定めた憲法に違反するのではないかとの指摘もありますが、この点についてはどう考えますか

その点は憲法違反にあたらないと考えています。

憲法14条は「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」としています。これは国民を国が差別してはいけないという意味です。

一方、憲法2条で「皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する」と定められています。世襲の原理は平等原則とは別です。皇族の数を増やすために、皇室が旧宮家の方を迎えるのであれば、平等原則は適用されないと考えられます。

法制局は昨年(2023年)11月15日と17日、衆院内閣委員会で明確に「憲法の許容するところだ」との見解を示しています。皇室には平等原則が適用されないというのは政府見解でもあるし、憲法学者の学説の通説でもあります。

——旧皇族を復帰させることは現実的なのでしょうか

その点は心配ないと考えています。

旧皇族の方々は昭和22年10月14日、GHQの圧力によって臣籍降下させられました。そのことに昭和天皇は反対されていたことが、資料によってわかっています。

離れた11宮家には、26人男子がおられたんですよね。既に男子が絶えた家もありますが、賀陽家、久邇家、東久邇宮、竹田家の4家には若い男性方がいらっしゃいます。その男系男子孫の悠仁親王を支える世代の中から、たとえば4宮家に倣って4人、少なくとも3人位の方に養子になっていただくと。そうすれば悠仁親王を支える体制ができるわけです。

今の皇室典範は養子を禁止していますが、私は退位特例法と同じように皇室典範本文に手を加えるのではなく、特例法を作ることが好ましいと考えています。

今回、男子がいないために養子を迎えることになりますが、いつまでも旧宮家の方だからということで入ってくるのは不自然です。例えば10年など期間を限って、あくまでも特例的に進めることが考えられます

——ただ、すでに数十年を民間で過ごして来たご本人たちのご意向は得られるのでしょうか

「いざとなれば」と男系維持の決意をもっておられる方々はいらっしゃいます。もちろんご当人、あるいはお若い方だったらご両親など、当事者の了解を得ることが前提です。

養子を進めるのであれば、まず旧宮家養子特例法を作らなければいけません。おそらくそれに基づいて動くのは皇室会議だと思いますが、現宮家と旧宮家の色々な内情を調べてお声をかけることになるでしょう。

——旧宮家の方々を例えば男子を迎えるとか国民は理解できるのでしょうか

これまでも男子皇族は民間の方とご結婚されてきました。結婚して妃殿下になられた方々は皆さん民間出身でしたが、立派な皇族になられています。

養子となる方々は、由緒正しい旧宮家の方々です。その方々が皇族になれば、立派な皇族となられることでしょう。そう思いますよ。

歴史的にも宇多天皇や醍醐天皇のように一旦臣籍降下した方が後に皇族、天皇になった方もおられます。今の旧宮家の男子と立場としては同じではないでしょうか。

一方、民間から男子を迎えたことは一度もありません。女性宮家をつくり、民間の方と結婚した場合、どんな方がくるかわからない。これは危険でしょう。

そんな制度を採用するのか、それとも皇室の歴史伝統を踏まえて旧宮家の男系男子を養子としてお迎えするのか。どちらが正しいのか、望ましいのかは、おのずから結論が出ると思います。

●「皇室の伝統と憲法は男系」

——女性天皇、女系天皇を容認する世論もふまえて検討するべきではないのでしょうか

世論と言いますけれども、確かに皇室が存続するためには国民の支持が必要です。しかし皇位継承はあくまで皇室典範に基づくものですから、世論によって変更することはできません。かつては雅子さま、愛子さまに対するバッシングがあった時代もありました。その時々の移りやすい世論でもって皇室のあり方を決めていいのでしょうか。

確かに憲法は天皇の地位を「日本国民の総意に基づく」(第1条)と定めていますが、国民の総意で決まるのは天皇制度そのものであって、個々の天皇のことではありません。その天皇を時々の国民の意見で決めてしまっても良いのでしょうか。

また、憲法にいう「日本国民の総意」についてはさまざまな考え方がありますが、少なくともその時々の世論とは異なります。したがって、世論だけで皇室の伝統であり憲法が想定している男系の皇統を変更することなどできません。

「不易流行」という言葉もあります。不易という変わらないものがあって、しかし変わるものもあると。皇室は2000年も守り伝えられてきたかけがえのない伝統ですよね。こういったものは変えてはならない。男系男子は不易の部分だということなのではないでしょうか。

——国民がなぜ女性天皇、女系天皇を容認するのかも検討するべきではありませんか

女性、女系天皇の支持者たちはその意味を十分に理解しないまま「男系が良いか、女系が良いか」と二者択一で議論を進めているのではないでしょうか。男女平等などの視点でもって「男系がいいか、それとも女系がいいか」と、議論をしていると私には思えます。

男女平等の立場から女性天皇を支持する人が多いのではないでしょうか。しかし皇室には平等原則は直接適用されません。また、皇室は女性を受け入れますが、男性を排除してきたんですよ。つまり男性差別とも言えなくもありません。

なぜ男性を排除したかと言えば、男系を守るためでした。古代は皇族同士しか結婚しませんでした。それが聖武天皇の頃から民間の皇后がどんどん入ってくるようになります。その間に生まれた子すべてに皇位継承権を認め、女系も容認していったら、日本の皇室は藤原家の家系になっていたかもしれないし、バラバラになっていたでしょう。そうならないよう男子は排除してきたと考えられます。

男系の皇統は一度断絶したら二度と繋がらない。取り返しがつきません。

【プロフィール】 国士舘大学客員教授、日本大学名誉教授。法学博士。 昭和21年、静岡県生まれ。昭和46年、京都大学大学院修了。愛媛大学教授を経て、平成6年より日本大学教授。平成29年、日本大学名誉教授、国士舘大学特任教授。専門は憲法学。比較憲法学会・元理事長、憲法学会理事、産経新聞「正論」執筆メンバー。産経新聞「正論大賞」受賞(平成31年)。著書に『憲法における天皇と国家』(成文堂、3月刊)『憲法の常識 常識の憲法』(文春新書)『憲法と日本の再生』『靖國と憲法』『政教分離とは何か』『憲法と政教分離』(成文堂)など多数。

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