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迷走する司法試験…「ロースクールって意味ある?」「予備試験こそ本命」学生たちの本音

迷走する司法試験…「ロースクールって意味ある?」「予備試験こそ本命」学生たちの本音

司法制度改革の”目玉”として注目されたロースクール開校から20年。多様な人材を確保しようと未修者コースをもうけたものの、思うように合格率は上がっていない。当初は合格率7〜8割との触れ込みで「自分も文系最強資格が得られるのでは?」と夢見た者もいた。

しかし、ふたを開けてみれば合格率は半分にも満たず。3割以下に落ち込んだ2010年代初頭には「国家的詐欺では?」との指摘すら現れた。2011年にローを経ない「予備試験」が始まると、合格率には大きな差が出て、ロースクール離れが加速した。

「ロースクールは意味ない」「予備試験が本命」。現役学生からは、こんな本音も聞こえてくる。ロースクールの存在意義とは。

●「ローは受験資格を得るためだけのもの」

司法試験の最終合格者数とロー修了者と予備試験の合格率(法務省公表資料をもとに、弁護士ドットコム作成) 司法試験の最終合格者数とロー修了者と予備試験の合格率(法務省公表資料をもとに、弁護士ドットコム作成)

「ローは受験資格を得るためだけのもの」。国立大ロー既習者コースを修了したAさん(25歳)は、きっぱりと語る。

自主ゼミなど同級生との人脈はできたものの、試験対策はローだけでは不十分だといい、周囲のほとんどが予備校にも通っている。ローにもOBや弁護士が答案を見てくれる制度はあるが、利用している人は少ない。

「予備試験が通れば中退するつもりでした。予備校には予備試験+司法試験対策とセットのコースもあるし、効率がいい」

予備試験が最優先という姿勢は、他のロー生や法学部生からも見える。

早稲田大法学部3年のBさん(20歳)は「予備通った人が9割受かるんだったら、ローって要ります? ローは学生の身分を得るためのもの。在学中に予備試が無理だったら、ローの2年は猶予期間かなというのが、周りの考えとしては定番です」と手厳しい。

できるだけ早く予備試験に通り、会計士資格も取って、ビジネスシーンで使える人になるのが夢だという。

「学部在学中の予備試組が最強で、次がロー在学中の予備試。ローを出て一発合格は3番手と階層ができています」と慶応ロー1年Cさん(23歳)は語る。

事務所訪問をすると、予備試組は優秀さの指標とされていて「市場価値が高い」と感じるという。

2020年に運用が始まった「法曹コース」(通称3+2)については価値を判断しかねている様子。 「勉強一辺倒になってしまい、生き急いでいる気がする」(Cさん)「大学で勉強以外のサークル活動もできない。交流したことないですね」(Bさん)

画像タイトル ロースクールの数と志願者数の推移(文部科学省のデータ等を参照のうえ弁護士ドットコム作成)

●「合格率約7〜8割」の幻想

ロースクールは法曹養成に特化した教育をおこなうために2004年に設置された。68校が開校し、翌年の2005年には74校になった。ロースクールの志願者数は減少傾向が続き、2018年度には過去最低となる8058人に落ち込んだ。2011年度からは学生募集の停止や廃止が続き、2023年度はピーク時の半数以下となる34校だった。

法学を学んだ既修者コース(2年)に加え、社会人や他学部出身者などの多様な人材を呼び込むため、未修者コース(3年)がもうけられた。司法制度改革の審議会では修了者のうち「相当程度(例えば約7〜8割)の者が新司法試験に合格できる」よう、充実した教育をおこなうべきとされた。

約7〜8割が合格できるかもしれないーー。新たな制度は注目を集め、開設当初の入学志願者数は7万2800人、倍率は13倍にも上った。2005年度には4万1756人に落ち着いたが、2007年度まで4万人台を維持していた。

2006年に新司法試験が始まったが、期待されていた「約7〜8割」どころか、48.3%、翌年は40.2%、その後は20〜30%台に落ち込んだ。

既修者と未修者の合格率にも歴然とした差がある。修了後、リミットである5年以内に最終的に合格する割合(司法試験累積合格率)をみても、未修者は7割に届いていない。

画像タイトル 司法試験累積合格率(文部科学省、法務省データを参考に弁護士ドットコム作成)

●勢いづく予備試験組、揺らぐ“中核”

そもそも司法制度改革審議会の意見書では、学部や大学院の教育が法曹養成の役割を果たしてきたとは言い難いこと、学生が受験予備校に依存し「ダブルスクール化」「大学離れ」の状況になっていることなどが問題点として指摘されていた。

ロースクールは法曹養成の重要な「プロセス」として位置付けられていた。

ところが、2011年に予備試験がスタートすると、その位置が揺らぎ始める。予備試験は、ロー修了者と「同等の学識及びその応用能力並びに法律に関する実務の基礎的素養を有するかどうかを判定すること」を目的とする試験だ(司法試験法5条)。

意見書には「経済的事情や既に実社会で十分な経験を積んでいるなどの理由により法科大学院を経由しない者にも、法曹資格取得のための適切な途を確保すべき」とされていた。

「予備」という名前通り、本来はローに行けない人のために取られた救済措置だったはずだった。

画像タイトル 予備試験合格者の司法試験合格率(文部科学省、法務省のデータを参考に弁護士ドットコム作成)

しかし、予備試験組の合格率はロー組を大幅に上回り、人気が集中。レベルが上がり、合格率も上昇した。2012〜2018年度には6〜7割台だったが、2022年度には97.5%と驚異的な数字を記録。2023年度は在学中受験が始まったこともあり、微減の92.6%だった。法務省によると、これは純粋な予備試験組のみの数字で、在学中かつ予備試験通過の場合は「在学中」にカウントされるという。

2023年11月8日の合格発表会場にも、「在学中かつ予備突破組」の学生が複数いた。中央大と青山学院大から東大ローに入ったという2人は「留学のために学位が欲しいためローを修了する」「ローの学習は試験というより知的好奇心を満たすもの」などと話していた。

20年前、大きな夢の象徴として誕生したロースクールだが、度重なる制度変更を経て、「司法試験の受験資格を得る手段」以外の要素に着目する学生も出てきているようだ。

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