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ITコンサルから転身、32歳入学で司法試験1位合格 ロースクール1期生・伊藤弁護士が語る「キャリアの多様性」
伊藤雅浩弁護士(2023年10月、弁護士ドットコムニュース撮影)

ITコンサルから転身、32歳入学で司法試験1位合格 ロースクール1期生・伊藤弁護士が語る「キャリアの多様性」

2004年に開校したロースクール(法科大学院)は今年度で開校20年目となる。最大74校あった数は半減した一方、抜け道だったはずの「予備試験」受験者数が増え続けるという逆転現象が起きている。合格率も予備試験組が圧倒的に高く、ロースクールの存在価値を疑問視する声もあるが、開校当初に学んだ弁護士は、現状をどう見ているのか。

ソフトウェア知財・法務が専門でSNSでの発信も活発な伊藤雅浩弁護士は、法学未修者1期生だ。民間会社から一橋大ローに進学し、総合1位で司法試験を突破した。社会人経験者が少なくなったとの実感があるといい、現在の法曹界は多様な人材どころか「むしろ一様になった」と危機感を示す。(編集部・若柳拓志)

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●司法試験受験は「1回だけ」と決めていた

伊藤弁護士が入学したのは、ロースクール開校初年度の2004年だった。当時32歳。大学院の工学研究科を修了後、コンサルティング企業でシステム開発などの仕事をしていたが、業務上のトラブルで弁護士と関わったことをきっかけに、自身も法曹界に飛び込んでみようと思った。

伊藤弁護士は、ロースクール入学前に飛び交っていた売り文句「司法試験の合格率70~80%」を「私も一瞬信じましたが、すぐにありえない数値だとわかりました」と振り返る。

入学時はすでに結婚しており、幼い子どもがいた。家のローンもあった。売り文句ほどの合格率ではないとしても、司法試験受験は「1回だけ」と決めていた。

「毎月どれだけ貯金が減るのか、借りられる奨学金などを計算して、2007年の試験までは大丈夫だな、と。1回受けて不合格だったらあきらめるつもりでした」

早慶ローは不合格。唯一受かった一橋に法学未修者枠で入ったが、実際には法学部出身や旧司法試験を受験していた経験を持つ「隠れ未修者」も少なくなかった。伊藤弁護士のようにまったく法律を学んだことのない「純粋未修者」はクラスの半分くらいだったという。

当初は体系的に法律を学んだことのある人との差をかなり感じて「正直焦った」が、2年目に法学既修者と同じカリキュラムを受ける頃には「さほど差はない」と感じるところまで達した。こともなげに振り返るが、実際には勉強に専念していればいいという状況ではなかった。

「ロー入学までに、勤めていた会社での案件が終わらず、1年目の8月まで在籍してました。授業が終わって国立(くにたち)から都心に移動、日付が変わる頃まで仕事をするという日もあったので、結構苦しかったですね」

授業後に保育園へ子どもを迎えに行く生活も続いていたので、同期と飲みに行くこともなかった。限りある時間をやりくりして勉強した。

予備校に通うことはなかったものの、「ロースクールの授業を受けてれば大丈夫とは思っていなかった」という。

「授業だけで試験対策は万全などと誰も信じていなかったのではないでしょうか。旧司法試験の問題を仲間内で解いて答案を見せあったり、予備校が出版している短答式の問題集を解いたりはしてました。

当時のロースクールには『学校側が答案指導をしてはいけない』というような風潮がありました。論文の答案をどう書けばいいのかを先生に聞いても教えてくれないので、第1回新司法試験を受験した法学既修者1期生の方に答案を見てもらおうとお願いに行ったことがあります。試験を経験した人に見てもらうというのは大きな助けになりましたね」

この経験から、伊藤弁護士はOBがボランティアで母校ロー生の答案指導する仕組みを立ち上げた。

●弁護士は本当に「食えない職業」なのか?

ロースクールができる以前に比べ、法曹人口は増加。弁護士は「食えない職業」との意見があがるようになった。収入面での魅力がなければ、「弁護士を目指す時間やコストが見合わない」と敬遠する向きがあってもおかしくはない。

伊藤弁護士は、収入について、優秀な人材を引き付けるだけの魅力はいまだ残されているとみる。自身も、登録後まもなく、管理職だった会社員時代の年収を上回った。自分が直に関わったロースクール生や修習生には、「食べていける」「(収入面での)夢もある」と話すようにしている。

もちろん、無為無策で稼げるわけではない。「1年目からのロケットスタートをかなり意識した」と話す。

「ロースクールの同期が10歳下という状況で、同じようなスタートではダメだろうと思っていました。前職での知り合いに会いに行って、1年目から事務所の仕事以外に、個人で受ける事件もやっていました」

社会人経験があるからこその人脈と、そこで培った専門知識の“フル活用”といえる。

「さらに弁護士1年目の終わり頃から、ブログで自分の得意分野に関する情報を発信し始めました。自分のブランドを確立するイメージで、専門性を高めて依頼が来るようにしようと意識してましたね。実際、今の仕事にも繋がっています。

情報発信しても、最初は無人の暗闇に叫んでるような感覚がありますが、続けている内に光が少しずつ見えてきます。自分が動かなければ、人にも仕事にも繋がりません」

伊藤弁護士がブログで発信を始めたのは、ロースクール1年目を終える頃の「2005年3月1日」。初投稿では、「ブログをはじめてみることにした。書いていきたいテーマは2つ。 法科大学院と新司法試験、一期生(未修)の生活・学習など 男の子育て(まだまだ少数派だし)」とつづっている。「情報発信」の大ベテランの言葉には説得力がある。

●ロースクールと予備試験「二本立てで良いのでは」

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ロースクールの今後について、「他職経験者が増えてほしい」と要望する。

「必ずしも私のように理系でなくて良いと思います。法曹は社会問題を扱う仕事ですが、法律だけで物事が解決できるわけではありません。他分野の知識や経験が役に立つことも少なくないはずです。

私も、前職の業界絡みなら『こういう資料ありますか』と依頼者に尋ねることがあります。現場を知っているから、どんな資料を持っているか、だいたい見当がつく。また、トラブルがたとえ思うような解決に至らなかったとしても、『業界を知る弁護士が解決に向けて手を尽くしてくれた』という要素は、依頼者の納得感につながることがあります」

また、ロースクールと予備試験については「二本立てで良いのでは」と話す。

「自分のペースで勉強したい人は予備試験を受ける。一人で勉強するのがつらかったり、法律をじっくり学びたい人はロースクールに行く。自分に合った選択ができる形が良いと思います。

個人的には仲間と議論して問題を考えるという体験がよかった。一人で勉強して試験を受けていたら、つらかっただろうなと思います」

社会人経験のある伊藤弁護士としては、最短で司法試験合格を目指す風潮に対して、「そこまで生き急がなくてもいいのでは」と思うこともある。しかし、「若くして合格したいと思わせる要因が法曹界側にある」と指摘する。

「裁判所や検察庁、大手法律事務所は、若い合格者を優遇して採用しようとします。自分も司法試験後に大手・中堅法律事務所に応募しましたが、ことごとく落とされましたから(笑)。学生がそこで活躍したいと思ったら『若いうちに合格するしかない』となってしまうのも無理ありません」

多様な人材を確保・育成することがロースクールの主眼だったが、「むしろ一様になりましたよね」と手厳しい。ロースクールに進学する社会人経験者についても「絶滅危惧種」と評する。

「『何歳だろうと受験何回目だろうと優秀な成績を出したり、志がある人材を採用する』ことをしなければ、同じような経歴の人が並ぶことになります。若くして合格した方は確かに優秀ですが、本当にそういう人だけでいいのかと思うことがあります」

国は法学部3年とロースクール2年の教育課程「法曹コース(いわゆる3+2)」を新設するとともに、「在学中受験」を可能にするなど、法曹志願者数の回復に向けて制度の立て直しを図っているが、伊藤弁護士は「無理してロースクールに寄せる必要はないのでは」と疑問を呈する。

「制度の見直しをする方々には頭が下がるのですが、個人的には迷走していると思います。制度をいじくられて困るのは学生や受験生。気の毒です。法曹になりたいという信念を持っている人が真っすぐに目指せる受け皿であってほしいです」

プロフィール

伊藤 雅浩
伊藤 雅浩(いとう まさひろ)弁護士 シティライツ法律事務所
工学修士(情報工学専攻)。アクセンチュア等の約8年間コンサルティング会社勤務を経て2008年弁護士登録。システム開発、ネットサービス等のIT関連法務を主に取り扱っている。経済産業省「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」研究会メンバー。

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