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コロナ対策めぐり大阪府知事ら脅迫「利権まみれのてめぇらには」 被告人は「国民を代表して抗議」と正当化
大阪地裁(LOCO / PIXTA)

コロナ対策めぐり大阪府知事ら脅迫「利権まみれのてめぇらには」 被告人は「国民を代表して抗議」と正当化

「利権まみれのてめぇらには死が似合う」などの文書を送付したとして、脅迫罪で起訴されていた50代男性に対し、大阪地裁は今年(2023年)10月、懲役2年6月(求刑同じ)、執行猶予5年の判決を下した。脅迫文書は大阪府の吉村洋文知事をはじめ、全国の複数の政治家や医師に対して送られていた。

被告人は犯行当時、長野県内の町役場に勤める公務員だった。ワクチンなど新型コロナウイルス対策に勝手に不満を募らせ、被告人と考えの異なる政治家や医師に対して脅迫文やカッターの刃などを送るという卑劣な犯行であり、判決では「民主主義を脅かす犯行」と厳しく断罪された。(裁判ライター:普通)

●「人権を無視する知事」「死刑」などと脅迫

長野県内の町役場に勤務していた被告人は、運用を任されていた町のSNSアカウントで2020年12月、新型コロナウイルス感染症について「ただの風邪」などと投稿して物議をかもし、当時の報道によれば、2023年1月、依願退職していたという。

起訴状によると、2021年から翌年にかけて7件の脅迫文書を送った疑いがかけられている。後の被告人質問によると、起訴状にある犯行以外にも同様の脅迫文を送付していると自ら供述している。

その脅迫文言には「人権を無視する知事」「死刑」といった送られた人本人を攻撃する脅迫文句だけでなく、その家族への危害の可能性をうかがわせる内容も含まれていた。カッターの刃が入っている文書もあったという。

被告人は起訴状の事実を全て認めた。

●「ワクチン未接種者を差別をしている」「国民を代表して抗議」

検察官からの冒頭陳述、請求証拠によると、脅迫文を受け取った被害者の一人は、防刃服を着るようになるなど、強い恐怖心を抱いたことが明かされた。また「言いたいことがあるなら、真っ当に訴えるべき」など、政策を暴力で封じようとする被告人に対し、強い処罰感情を表した。

一方で被告人もまた、取調べにおいて怒りの感情を隠せなかった。コロナ対策について、「ワクチン未接種者を差別をしている」「感染拡大を国民に押し付けている」「国民を代表して抗議していた」などと、自身の正当性を強く訴えた。

脅迫文では「死が似合う」など強烈な表現をしているが、あくまで動機としては「コロナ対策を考え直して欲しい」という思いであったとも弁明している。

●「本当に兄が?」と驚く妹

弁護側の情状証人として、被告人の妹が出廷した。事件以前までは、実家で被告人と年に数回顔を合わせることもあったそうだが、コロナ禍で会う機会が極端に減り、様子の変化に気が付かなかったという。今後は、近所に住んでいることからも定期的に会食や会話をすることで、再犯防止のための監督に努めると証言した。

事件の原因については、事件当時、被告人の職場では自殺者や病死者が複数出るなど労働環境が問題になっており、それに心を痛めていたのではないかと推測する証人。元々、過激なタイプでなかったという被告人なので、今回の事件に戸惑ったというが、家族として見放すことはしないと証言した。

●コロナ禍に役場で3人が自殺、職場の対応を「ことなかれ主義」と批判

証人の尋問の様子を神妙な面持ちで聞いていた被告人。弁護人からの被告人質問の冒頭では、今回の犯行を「幼稚で、浅はかな行為で後悔している」と反省の姿勢を見せた。

その一方で事件当時の、コロナ対策への不満の話になると、時折思いを強くするような口調になった。脅迫行為にいたる以前より、街灯でビラ配り、公的機関への訴えを行ってきたが、被告人自身は地方公務員でもあり、活動には制限があったと供述する。

妹が証言した職場環境についても弁護人が質問した。26年間勤めた町役場では、コロナ禍で3名が自殺、1名が病死するなど不幸が続いた。

町役場に対して、職場改善として話し合う場を設けるも、何も改善はされなかった。その一連の対応を「ことなかれ主義」、「何もしないことが是」と感じるようになり大きな不満を抱いた。被告人にとって、今回の脅迫文の送付先となった被害者らは、コロナウイルス対策について、同じく「ことなかれ主義」である人物のように感じ、重ね合わせたのだと供述する。

身の回りには、被告人の活動の支援者、同調者はいなかった。しかし、「SNSを見たらそういう意見だらけだった」などと感じていた。

今では、犯行を短絡的であったと認め、そのような精神状態にならないよう、家族の監督に委ねるのと、定期的にカウンセラーと話し自己の考えを見つめ直すと供述した。

●「日本にとって何が大事か考えたい」

検察官からの質問では、事件当時の心境について深く質問がなされた。

検察官「このような文書を送付して何を実現したかったのですか?」
被告人「コロナ対応の不満、事なかれ主義、利権を搾取していることを伝えたかったが、脅迫の事実だけが伝わることになってしまいました」

検察官「伝えたいことがあるのに、脅迫文書にした意味は?」
被告人「ネットに投書はしたけど、無視されて。私がやらなければという思いもあり」

検察官「その結果、あなたが思うような政策になると思ったのですか?」
被告人「なるとは思っていません。ただ、『不満を持っている国民がいるんだよ』ということを伝えたかったんです」

その後、被害者に対して、謝罪の意向を示すものの、自らの正当性を主張するかのように「正義感」「政策の愚かさ」「腐りきった政治」といった言葉も発せられた。

検察官「今回、自身の不満は何も解決していないと思います。もうしないと言っていましたが、今後似た感情が高まったらどうしますか?」
被告人「自分で自分をしっかりと見つめ直すというか、どう対処するのか考えます。私にとって、日本にとって何が大事か考えたいです」

●民主主義を脅かす、正当化できない犯行

裁判官が最初から強い口調で質問する。

裁判官「あなたの考えが正しいと、どう担保されます?どうして言い切れます?」
被告人「世の中に正しい意見はなく、公的な意見が正しいとされているが、99:1でも、1が間違っているとは限らない。何年かしたら歴史が証明してくれると思います」

裁判官「あなたがしたのは、一方の意見を封殺することかもしれないですよね」
被告人「一次的に逆転することもあるし、“反”とかレッテルを貼る人がおかしいと思います」

裁判官「暴力で封殺することで、恐いと思っている人が意見を出せなくなるとは?あなたがしていることは、反対派をバカにしていることになりませんか?」

被告人は言葉にならない答えをする。納得ができていないのか、言い返すことができないのかは傍聴席からは図ることができなかった。

判決において、元同僚の死とコロナ禍を結びつけてしまった精神状態の不安定さに言及する一方で、「民主主義を脅かす犯行で到底正当化できない」と強い言葉で非難した。

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