人気の「二郎系ラーメン」ですが、そのルールが「めんどうくさい」と感じる人も少なくないようです。
ラーメン二郎は、東京・三田にある「総本山」と、のれん分けした店があります。このラーメン二郎の味やスタイルから影響を受けた二郎系ラーメン(二郎インスパイア)を含めると、ラーメン業界で一大ジャンルとなっています。
一方で、「二郎系ラーメン ルール」と検索すると、「めんどくさい」というワードがサジェストされます。弁護士ドットコムがLINEで飲食店でのトラブルについて、体験談を募集したところ、多かったものの一つが、この「二郎系ラーメン」と呼ばれるラーメン店のルールでした。
実際、二郎系ラーメンを紹介したブログなどには、ルールの解説をしてくれているものも少なくありません。事前に「ネットでマナーを確認しておきましょう」と親切にアドバイスしてくれる人もいます。
なぜ二郎系ラーメンには、複雑なルールが多いのでしょうか。慶應義塾大学法学部時代、ラーメン二郎三田本店に通ったという「元ジロリアン」の西山良紀弁護士に聞きました。
⚫️ルール守れない客には「ラーメン作れない」という店も
二郎系ラーメンでは、入店するために並ぶところから「独自ルール」をつくっている店があります。列のつくり方や、私語・喫煙の禁止などです。行列ができる店だと、近所迷惑にならないよう、さまざまな配慮をしているようです。
しかし、「独自ルール」が守られない場合に、厳しく叱られたという人がいます。弁護士ドットコムニュースのLINEに寄せられた体験談を紹介します。
関東地方のある二郎系ラーメンを訪れた人によると、営業時間になっても開店しないばかりか、並びながらしゃべっていたら店員に注意されたそうです。その後、この人は店員から「うるせぇ」と毒を吐かれ、「異様な空気だった」とのことでした。
また、二郎系ラーメンといえば、「コール」と言われる独自のシステムがあります。たとえば、店員から「ニンニク入れますか?」と聞かれた際、ニンニクについてだけでなく、野菜や脂、トッピングの種類と量も一緒に伝えなければなりません。
ただし、その注文は初心者には「呪文」のように聞こえます。たとえば、「ヤサイマシマシカラメマシアブラスクナメニンニクマシ」と唱えているジロリアンがいたら、「野菜とても多め・スープのタレ多め・背脂少なめ・ニンニク多め」という意味だそうです。
二郎系ラーメンに慣れていない客には、まったくわからず戸惑うこともあります。
LINEに寄せられた中には、関東地方のある二郎系ラーメンで「ニンニクを入れないと店主が首をかしげる」という体験談がありました。「コール」でお互い意思の疎通ができず、困ったというケースのようです。「二郎系だけは行くなと言いたい。ローカルルールが多すぎ」という声もありました。
⚫️他店にはないサービスと客の意識がルールの背景に?
そもそも、なぜ二郎系ラーメンと呼ばれるラーメン店には、他のラーメン店にはないような細かいルールがあるのでしょうか。西山弁護士は「ラーメン二郎三田本店」を例にして、次のように説明します。
「私が通っていたときに把握していたルールは次の4つです。
(1)着席前に麺の固さと量(大か小か)を確認 (2)ラーメンが提供される寸前に無償サービスのトッピングの確認(コール) (3)食後、どんぶりをカウンターの上におき、カウンター上に置いてある布巾でカウンターを拭く (4)食後、すぐに店を出る(一緒に来た人が食べ終わるのを待たない)
まず、(1)について、ラーメン二郎では、太麺で茹でる時間がかかること、並んでいる多くの客にできる限りはやくラーメンを提供したいという思いから、麺を見込み茹で(着席する前から麺を茹で始めている)をしていると思います。その関係で、着席前に麺の量を確認するようになったのだと思います。
次に、(2)について、ラーメン二郎では、無償サービスで『野菜』『ニンニク』『カラメ(味濃いめ)』『アブラ(背脂)』を自分の好みで組み合わせたトッピングが可能です。
また、トッピングする分量についても『マシ』『マシマシ』という種類があります。このようにトッピングの組み合わせはかなりの数になります。多くの客に間違えずにトッピングを提供するためには、ラーメンを出す直前に確認することが効率的だということで『コール』と呼ばれるルールが生まれたのではないでしょうか。
たしかに、初めていく人にすれば『コール』は呪文のように聞こえ、注文に不安を覚えるかもしれません。しかし、私が通っていたころは『コール』のやり方がわからない人が店から注意を受けたという場面を見たことはないのであまり気にしないでよいのではないかと思います」
では、(3)と(4)については、どうでしょうか。
「店側からの要請というよりは、後ろに並んでいる客に迷惑をかけてはいけないというジロリアンの意識から生まれたルールだったのではないかと思います。
店のスペースの関係で、客がどんぶりをカウンターの上にあげたり、カウンターを拭いたりすることも、後ろに並んでいる客に迷惑をかけないために重要なのだと思います。
大雑把なまとめ方にはなりますが、他店にないルールが生まれたのは、他店にはない無償のトッピングサービスの存在、店とジロリアン双方の並んでいる客に迷惑をかけてはいけないという意識ではないでしょうか」
大人気のラーメン二郎三田本店(東京都)はいつも行列ができている(2023年10月、弁護士ドットコム撮影)
⚫️店外の行列に「私語禁止」、強制力はある?
店によっては、店外で並んでいる人にも「私語禁止」など細かなルールが決められていますが、ある店舗では、「ルールを守っていただけないお客様へはラーメンをお作りできません」という看板までありました。
「店の外にいる人に店側のルールを強制することはできません。
しかし、法的には、誰とどのような契約を締結するかは個人の自由になります。外で並んでいるときに『私語禁止』のルールに従えない人と契約しない(ラーメンを提供しない)のも店の自由ですし、逆に、外で並んでいるときまで『私語厳禁』のルールを設定している店で食事をしないのも客の自由になります。
私は、外で並んでいるときにまで『一切の私語禁止』というルールを設けている店を経験したことはなく、そのような店があるかわからないですが、二郎系ラーメン店だけではなく行列のできる店にとって、行列客のマナーは死活問題なのだと思います。
実際に、行列客のマナーが原因で近隣から苦情が出て、繁盛店が閉店に追い込まれてしまったというニュースがありました。また、二郎系ラーメン店でも、違法駐車など迷惑客に困っているというニュースを見たことがあります。
ただ、『静かにして下さい』という注意ではなく、いきなり『うるせぇ』と乱暴な言葉づかいで注意されるのは嫌ですね。いきなり乱暴な言葉づかいで注意されたら二度とその店には行きません」
⚫️店側と客側のミスマッチを減らすことが大切
店と客が気分よくラーメンを楽しむためにはどのようなことが必要なのでしょうか。
「求めているものが客によって異なっており、これが必要と断言することは難しいですね。
ジロリアンの多くは、ルールも気分よくラーメンを楽しむ重要な要素と考えていると思います。他方、ゆっくり食事を楽しみたい人、『コール』などの注文に不安を覚える人は、二郎のルールでは『気分よく』ラーメンを楽しむことはできないでしょう。このようなルールを語るような常連客が多い店の雰囲気が苦手という人も多いと思います。
自分には合わないルール・雰囲気がある個性のある店に間違って行ってしまうことは、客・店双方にとって不幸だと思います。ですので、店は『こだわりのルールや雰囲気、味の特徴などがあればホームページやSNSなどで周知』し、客は『気になるラーメン屋があれば初めて行く前にインターネットなどでルールや雰囲気、味の特徴等を調べる』のはどうでしょうか。
双方、気持ちよくラーメンを提供し、楽しむためには、ミスマッチを減らすことが大切だと思います」