たくさんの人で賑わうフードコートでは、思わぬアクシデントに見舞われることもある。弁護士ドットコムにも、子どもが飛ばした風船が原因で弁償を求められたという親から相談が寄せられている。
相談者によると、子どもが膨らませようとしていた風船が口からはずれて飛んでいき、他の客のハンバーグの上に落下した。相談者自身は落ちる瞬間を見ていなかったが、客に弁償するよう求められ、これに応じた。
ところが、客は弁償した品だけではなく、風船が落下したハンバーグも残さずペロリと食べきったという。相談者は「応じるべきだったのか」と腑に落ちない様子だ。どう対応すべきだったのか。池田誠弁護士に聞いた。
●子どもが12歳未満であれば、弁償は免れない
ーーそもそも、今回のように子どもが起こした思わぬアクシデントについて、親は責任を負うべきなのでしょうか。
12歳未満の子どもだった場合、過去の裁判例によると、民事上の責任については「責任無能力者」にあたると考えられる例が多いです。その場合、子どもが発生させた事故については、監督義務者となる親が損害賠償義務を負うことになります。
監督義務者は、必要な監督を怠っていなかった場合などには、その責任を免れます。今回のケースについては、通常は親として必要な監督をしていなかったと評価される可能性が高いと思います。したがって、仮に事故の原因が子どもの行為によるならば、親として弁償を免れないと思います。
ーー親である相談者は事故の瞬間を見ていなかったようですが、事故の原因は子どもだと言い切れるのでしょうか。
一般的には、子どもが飛ばした風船を拾い上げて自分でハンバーグに乗せて被害を訴えるような事情は考えにくいといえます。
現にハンバーグの上に子どもが遊んでいたものと同じ風船が乗っていたら、目撃者がいる、監視カメラの映像がある、明らかに飛んでいった方向と被害場所が異なる、などという事情がない限り、原因を争うのは難しいと思います。
●たしかにモヤモヤするけれど…
ーー相談者は弁償したにもかかわらず、風船が落ちたハンバーグを被害者が完食したことにモヤモヤしているようです。
代金を全額賠償した場合、「賠償者代位」(の類推適用)という制度を通じ、風船が落ちたハンバーグの権利が当然に相談者にうつることになります。
それにもかかわらず、そのハンバーグを被害者が食べてしまったということだと、理屈上は、弁償者から被害者に対してそのハンバーグに残った価値分について不当利得返還請求権が発生することになります。
ーーハンバーグに「価値」は残っているといえるのでしょうか。
今回のケースは食品にかかわることで、人が口をつけたり、手に持ったりした風船がその上に乗ってしまったという事故です。そのため、衛生面や心理的な面から、価値は相当下がっていると思います。
なお、法律上は上記のとおりですが、経済的に見てほとんど価値が残っていないハンバーグについて権利を主張せず、被害者が食べるのを黙認した場合などには「賠償者代位による権利の移転を放棄した」「ハンバーグの処理を被害者に委ねた」などと評価される可能性が高いでしょう。
事後に不当利得返還請求をおこなうことは非常に迂遠です。また、先述のとおり、権利を放棄しているなどと評価される余地もあります。もし、料理を被害者が完食することに違和感を覚えるような事故なら、あらかじめ弁償額で調整しておくのがよいかもしれません。