街の中で、母親らしき大人が子どもを蹴りつけている現場を目撃してしまった場合、どう対応すればいいのだろうか。渋谷駅の構内で撮影された「児童虐待」と思われる動画が、フェイスブックに投稿され、大きな議論を巻き起こしている。
動画に映っているのは、駅構内でぐずる小さな子どもと、保護者らしき女性。泣き叫ぶ子どもに対して、女性が「ふざけんなよ」と左足で蹴りつけると、子どもは頭から床に倒れ、「ゴツン」という音を響かせた。少し離れた位置で動画を撮影していた男性が、「警察を呼ぶぞ!」「ビデオに撮ったぞ!」と警告すると、女性は子どもを抱えて立ち去った・・・。
●「身体を張って止めることには、リスクも感じた」
3月1日にフェイスブックに投稿された動画は、6月中旬から急にネットで拡散した。「シェア」の数は3万件を超え、コメント欄には「常軌を逸している」「いいねと押せない」といった感想や意見が多数、書き込まれた。一方で、「なんで即止めに入って警察呼ばない」「僕なら止めに行きますね。ビデオはそれからです」といった批判的なコメントも寄せられた。
フェイスブックだけでなく、ツイッターや2ちゃんねるなどネット上のさまざまな言論空間で、「児童虐待の現場を発見した人がどう対応すべきなのか」をめぐって、熱い議論が交わされている。
動画を投稿した会社員の嘉瀬正貫さん(38)は、弁護士ドットコムの取材に対して、「どうにか止めさせたいとは思ったが、身体を張って止めることには、リスクも感じた。そのとき、そこまではできなかった」とコメントしている。もし、こんな状況に遭遇したら、どうしたらいいのだろうか。田沢剛弁護士に聞いた。
●「見て見ぬふり」から一歩踏み込んだ
――児童虐待と思われる現場を見かけた場合、どうすれば良いか?
そもそも虐待を受けたと思われる児童を見つけた人は、福祉事務所もしくは児童相談所に通告する義務があります(児童虐待防止法第6条1項)。なので、児童相談所などに連絡するとよいでしょう。また、早急に子どもを救い出す必要がある場合は、警察に連絡してもかまいません。なお、児童相談所に通告しなかったとしても、罰則はありません。
――保護者による暴力を無理やり、止めに入ることは?
まったく問題ないでしょう。刑法では、「急迫不正の侵害に対して、自己または他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない」(36条)とされています。つまり、この子どもを助けるために、保護者に対して反撃を加えたとしても、正当防衛として判断されるでしょう。
――こうした現場に遭遇して、見て見ぬふりをする人も多いと思うが・・・。
たとえ何もできなかったとしても、やむをえないのではないかと思います。道義的には非難されるかもしれませんが、駅のホームで肩がぶつかったのを注意したくらいでも、トラブルに発展する可能性があります。また、自分の身を守らなければいけない事態もあるでしょう。いろんな意見があるのも当然です。
そうは言っても、勇気をもって挑んでほしいという思いもあります。間違ったことに勇気をもって立ち向かっていける世の中になれば良いでしょう。そういう意味で、動画を撮影・投稿された方は、見て見ぬふりをしている人たちにくらべれば、一歩踏み込んだことをやったのだと考えていいでしょう。