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市街地にも出没、クマの人身被害「過去最悪」ペース 抗議殺到でも「駆除」しなければならない理由
ツキノワグマ(MLYN / PIXTA)

市街地にも出没、クマの人身被害「過去最悪」ペース 抗議殺到でも「駆除」しなければならない理由

全国でクマによる人身への被害が過去最悪のペースで増えている。環境省によると、今年4月から9月末までの全国の被害人数は109人で、集計を始めた2007年以降、同期間で100人を超えたのは初めてという。

特に、人里や市街地での人身被害が増えており、駆除頭数も増加傾向にある。さらに、警戒する自治体を悩ませているのが、クマを駆除したというニュースを見て、地域外から抗議が殺到することだ。

しかし、出没したクマをすべて駆除しているわけでない。クマは鳥獣保護法によって保護されており、狩猟期間や駆除の要件も厳しく定められている。環境省によると、駆除されるのは一部の「問題個体」とされるクマであり、人命を守るために駆除されるという。

今後、冬眠前にクマがエサを求めて人里に出没するなど、さらに被害が増える可能性があるとみて、環境省や各自治体は厳重な注意を呼びかけている。

⚫️なぜクマの生息地域は広がった?

「秋田市ではクマの出没が市街地を含めた各地で相次いでおります。目撃件数は、昨年は176件でしたが、今年は2倍以上の372件、人身事故は、昨年は発生しておりませんが、今年はすでに12件発生しており異常な事態となっております」

秋田市は公式ホームページの「ツキノワグマ情報」で、今年は「異常事態」であることを強く訴えている。

連日のように人身被害が報告されている秋田県も例年になく警戒を強める。例年は10件にも満たない人身被害が、今年度はすでに39人となっている(10月11日現在)。

一部の地区では、「人が集めた山菜を奪う」「積極的に人を襲う」危険性のあるクマが出ており、クマ鈴やラジオの携帯など従来の対策では防ぎきれないとして、入山自体を禁止としている。

市街地や人里にクマが出没し、人身被害が出る背景には「クマの生息する地域が拡大していることにあります」と、環境省の鳥獣保護管理室の担当者は説明する。

北海道のヒグマや本州と九州のツキノワグマの分布が拡大傾向にあり、市街地や人里まで出没するクマが増加しているという。

石川県の公式ホームページでは、クマの生息域地域が広がっている理由について、次のように説明、SNSで注目を集めた。

「昭和40年頃まで、クマの主な生息地は、山奥の大きな木が生い茂る深い森で、人里近くではクマに出会うことはほとんどありませんでした。

この頃までは人里とクマの住む奥山の間には里山があり、里山では、人が毎日の生活や製炭、産業で使う薪をとるために頻繁に伐られ、若く細い木ばかりの林しかありませんでした。そのため里山では、小型のノウサギ、タヌキ、キツネなどが住むには適していますが、大きなクマは住めなかったのです。

しかし、40年位前からガスや石油を燃料に使うようになり、里山は放置され、木々は大木となり、多くの実をつけるようになり、奥山と似た状態になってしまいました。そのため、クマは、人の入らない里山の林にも住み始め、子供を産み、育てるようになりました。人とクマを隔てる役割をしていた里山がクマの住みかになり、人とクマが隣り合わせで住むようになっています」

道路に出没するヒグマ 道路に出没するヒグマ(柴道楽 / PIXTA)

⚫️駆除される「問題個体」とは?

クマの生息地域が広がるにともなって人とあつれきを起こすクマも増え、駆除件数も例年増加傾向にある。環境省によると、2008年には全国で約1300頭だった駆除件数が、2020年には約7000頭にまで増えている。

人身被害が起きないよう国や各自治体は対策に本腰を入れている。環境省や警察庁、農水省などは、クマ被害対策について関係省庁の連絡会議を定期的に開いているほか、北海道ではヒグマ被害に対応するために2022年から「ヒグマ対策室」を設置している。

しかし、クマの人身被害が報道されると、自治体やクマを駆除したハンターに対して「クマを殺すな」「クマがかわいそう」といった抗議が多数寄せられる。

環境省の担当者によると、駆除されるクマは、「農作物やゴミ等の味を覚え、人間活動域周辺へ出没したり、人間に対して攻撃性を持つようになった問題個体」で「人命に被害が及ぶ可能性がある場合」という。

「OSO18」が駆除された際、ハンターに対する抗議が殺到した北海道では、公式ホームページで次のように呼びかけ、理解を求めている。

「道民の皆様、道外の皆様へお願い(ヒグマ有害捕獲へのご理解について)

ヒグマの捕獲に従事される方々は、地域の安全・安心な暮らしを守る上で、欠くことのできない存在です。

人身事故や農業被害の防止のため、鳥獣保護管理法に基づく許可を受け、適正に行われた捕獲に関して、捕獲に従事された方(ハンター)が非難を受けることは、地域のヒグマ対策の根幹を担う捕獲の担い手確保に重大な支障を及ぼしかねません。

皆様には、捕獲に携わる方々が、道民の生活を守るために、安心して捕獲に取り組んでいただけるよう、法に基づく捕獲の制度や捕獲従事者の方々の社会的な重要性をご理解いただきますようお願いいたします」

これからさらに被害が出る可能性もある。環境省の担当者は「クマはエサを求めて人里におりることもあります。また秋は行楽シーズンやキノコ採集などで山に出かける方も増えると思いますが、自治体が発信しているクマの出没情報をよく見て、できるだけ遭遇しないように対策してください」と話している。

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