長崎県の元新聞販売店主が、不要な仕入れを強制される「押し紙」被害にあったとして、読売新聞西部本社(福岡市中央区)に約1億5000万円を求めていた訴訟の判決が5月17日、福岡地裁(林史高裁判長)であり、元販売店が敗訴した。押し紙は認められなかった。
判決によると、この店主は1998年から販売店を始め、2011年3月から廃業する2020年2月までの分を請求していた。店舗と新聞社が交わす業務報告書によると、以下のように長期間仕入れ部数が変わっていない期間があった。
・2011年3月~2014年2月:仕入れ3732部 ・2014年6月~2016年2月:仕入れ3132部 ・2016年3月~2017年3月:仕入れ2932部 ・2017年4月~2018年12月:仕入れ1500部(急減は店舗縮小のため) ・2019年2月~2020年2月:仕入れ1434部
一方で、購読者は減少傾向にあり、仕入れの2~3割程度が購読者のいない新聞になっている時期が長く続いていたという。
●注文通りの部数なら不問
新聞販売店では通常、雨などに備えて実配数よりも多くの新聞を注文している。問題はこの「予備紙」がどこまで、またどういう状況なら許容されるかだ。
かつては新聞各社でつくる「新聞公正取引協議会」が、予備紙は実際に配達する部数の2%までとするモデル規則をつくっていたこともあった。しかし、このルールは1998年頃までに廃止されているという。
一方、独占禁止法(2条9項6号)では、1999年に改正された公正取引委員会の告示(新聞特殊指定)で、以下の行為により販売店に不利益を与えることが禁じられている。
(1)販売業者が注文した部数を超えて新聞を供給すること(新聞特殊指定3項1号) (2)販売業者からの減紙の申出に応じないこと(同上) (3)販売業者に自己の指示する部数を注文させ、当該部数の新聞を供給すること(同2号)
今回の福岡地裁判決は(1)について、販売店側の注文通りの部数が供給されているとして該当しないと判断。(2)についても、元販売店側は減紙を断られたと主張したが、裏付ける証拠を欠くなどとして退けられた。
●販売店が自ら判断 指示は否定
(3)については、元販売店側が期間中に予備紙分も含めて計約3億円の折込広告料と新聞社から約1億3000万円の補助金を得ていたことなどから、元販売店が自らの判断で余剰の新聞を注文したと認めるのが相当などとして、読売側に部数の指示行為はなかったと判断した。
実際、新聞販売手数料と折込手数料の比率については、57:43とする統計もあるといい、折込手数料は新聞販売店の大きな収入源になっているという。
また、補助金については、同店では2016年3月~2017年3月に2932部を仕入れていたが、期間中の2017年1月に経営が苦しいとして1982部への減紙を訴えていた。これに対し、読売側の担当からは対応を検討するとして保留された。直後、補助金を月額50万円追加することが提案され、同年1~3月は同じ2932部を仕入れている。なお、4月から店舗縮小により仕入れは1500部になった。
ただし、「水増し」によって得られた折込広告料・補助金の合計額と、その分の仕入れ代を単純比較すると、仕入れ代のほうが大きく、業務報告書ベースでは約10年で4000万円程度の赤字になっていた。
この点について裁判所は、仕入れを減らして折込広告枚数が減った場合、再び枚数を増やしてもらえるとは限らないため、購読者の増加や景気回復による折込広告の増加・増額を見込んで、仕入れ減に慎重になる可能性は十分にあるとして、仕入れ代のほうが多いという一事をもって、新聞社側からの部数の指示があったとは言えないと判断している。
なお、新聞の注文数と購読者数が大きく乖離した状態については、4月20日にあった広島県の元販売店が読売新聞大阪本社を訴えた事件の判決で、大阪地裁(池上典子裁判長、野村武範裁判長代読)が「社会的に望ましいものではないということもいえる」などと言及している(結果自体は元販売店の敗訴)。しかし、今回の福岡地裁判決では社会的な評価への言及はなかった。