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「水道局員自死」で上司の責任認める、新潟市に3500万円の賠償命令 新潟地裁
「勝訴」の旗を掲げる遺族側代理人弁護士ら=11月24日、新潟市内、牧内昇平撮影

「水道局員自死」で上司の責任認める、新潟市に3500万円の賠償命令 新潟地裁

新潟市水道局に勤めていた男性(当時38)が2007年5月に自死したのは、上司(係長)のいじめや困難な業務を任されていたことが原因だったとして、男性の遺族が新潟市に約8000万円の損害賠償を求めた裁判の判決が11月24日、新潟地裁(島村典男裁判長)で言い渡された。

判決は「係長から叱責されることなどを恐れて精神的に追い詰められた」と指摘し、水道局の注意義務違反を認定。遺族に対して約3500万円を賠償するよう命じた。(牧内昇平)

●「公務災害」でいじめ認定→水道局は否定

訴えていたのは、男性の妻と二人の子。亡くなった男性は2006年夏以降、上司にあたる「係長」についての悩みを妻に打ち明け、2007年5月に自ら命を絶った。遺書には以下のような記述が残されていた。

〈どんなにがんばろうと思っていてもいじめが続く以上生きていけない。人を育てる気持ちがあるわけでもないし、自分が面白くないと部下に当たるような気がする。〉

自死から4年後の2011年11月に、「ひどいいじめ」があったなどとして「公務災害」が認定されたが、水道局はその後の内部調査で「いじめ・パワハラはなかった」と主張。2015年9月、遺族が提訴するに至っていた。

●上司の責任を認定、パワハラは認めず

裁判の主な争点は以下の2点だった。

(1)係長によるいじめ・パワハラはあったか。

(2)男性が任されていた業務は困難だったか。前任者からの引き継ぎや係長らの指導・サポートは十分だったか。(業務の困難さ・支援の欠如)

争点(1)の「いじめ・パワハラ」について、遺族側は同僚の証言などを基に、「長時間にわたって厳しく叱ったり、無視したりした」と主張した。

しかし判決は、この同僚の証言が公務災害認定時と水道局による内部調査の段階で「大きく変遷した」と指摘。「違法性を有する係長の行為を認めるに足りる証拠はない」と述べ、遺族側の主張を認めなかった。

一方で、判決は係長について、「同僚や部下に対し、厳しい対応を行う傾向や、強い口調で発言する傾向があった」と認定。そうした係長の言動の影響で、「職員が他の職員に対して業務に関する質問をするような雰囲気がなかった」とも指摘した。

そのうえで争点(2)の「業務の困難さ・支援の欠如」については、遺族側の主張を認めた。

男性が当時任されていた給水装置の修繕工事に関する書類作成業務について、判決は「男性には業務を単独で行うことができる能力や経験はなかった」と指摘。業務に対する理解が十分ではないためにスケジュール通りに業務を終わらせることができず、「係長から叱責されることなどを恐れて精神的に追い詰められた」と指摘した。

そして直属の上司にあたる係長について、「男性の業務の進捗状況を積極的に確認して必要な指導を行うか、部下への接し方を改善して男性が積極的に質問しやすい環境を構築すべき注意義務があった」と認定した。

●遺族「安堵している」「再発防止策を」

男性の遺族は判決後に記者会見を開き、こう語った。

「夫が亡くなって15年が経ちましたが、今日ようやくいい報告ができると安堵しています。ただ悔しいのは、勝訴判決でも夫が帰ってきてくれないことです。水道局は心の底から猛省し、二度とこのようなことが起こらないように、実効性のある再発防止策を講じてほしいです」

判決後、裁判所の前で亡くなった男性の写真を手にする遺族=11月24日、新潟市内、牧内昇平撮影

遺族側代理人の岩城穣弁護士は、「係長によるパワハラが認定されなかったのは残念だが、勝訴の結論には安堵している。被告側が控訴しない限り、こちら側からは控訴しない」と話した。

新潟市水道局の担当者は「判決文を精査した上で今後の対応を検討する」としている。

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