イラストコミュニケーションサービス「pixiv」を運営するピクシブ社に勤めるトランスジェンダーの社員(30代)が、男性上司からセクハラを受けたとして、男性上司および同社に対して、慰謝料約555万円を求める訴訟の第1回口頭弁論が9月8日、東京地裁であった。
男性上司は自身の行為と損害との因果関係および一部事実関係を争うなどとして請求棄却を求めた一方、ピクシブ社は争うことなく原告側の請求を認諾。同社代理人は、請求額をすみやかに支払う意向を示した。
原告側は、男性上司個人に対し、休職期間中の逸失利益や追加の治療費などについて請求の拡張をする意向を示したが、同社に対してはこれ以上請求しないとし、同社との係争は請求額が支払われる形で終わる見込みだ。
提訴時の会見によれば、男性上司は「キャバ嬢にしか見えない」など性的な発言をしたり、セクハラ発言を謝罪した際も「男だから平気だと思った」「これからはお前を一人の女性として見る」などと言うなど、性同一性について理解を欠く内容があったという。セクハラが原因で精神疾患の診断を受け、休職に至ったと原告側は主張していた。
●原告「非を認めたことについては前向きに捉えている」
8日、取材に応じた原告代理人の仲岡しゅん弁護士によると、同社はハラスメント予防や原告と約束した措置が不十分だったなどとして会社の使用者としての責任を認め、「原告の人格や心を傷つける許されざる事態」について謝罪の意向を示し、請求を認諾したという。
原告側は同日、「遅きに失したとはいえ、ピクシブ社では本件訴訟を通じて、セクシュアルハラスメント対策、そしてLGBTをはじめとする多様な人々との共生に向けた取り組みについて、大きな改善が見られたものと、私どもは前向きに受け止めております」などとする声明を発表。
請求の認諾という進展が得られたことについては、「本件について適切な報道をしてくださった報道陣の皆様、またピクシブ社内で原告を支えてくださった同僚の仲間たち、そして何より、ピクシブ社に適切な対応を行なうよう多くの声を上げてくださったpixivユ ーザーの皆様方、お一人お一人のおかげであると、私どもは深く感謝しております」とした。
原告本人も、期日後の取材に対し、同社が請求を認諾したことについて、「非を認めたことについては前向きに捉えている」と話した。
●ピクシブ社の見解
ピクシブ社は同日、公式ホームページで「弊社に係るハラスメント事案について」と題したお知らせを発表。同社が原告の請求内容に対し、全面的に責任を認め、請求を認諾したことを明らかにした。
発表では、「原告である弊社従業員に対しまして、社内でハラスメント被害が発生してしまったこと、またそれに対する弊社の度重なる対応の不足・不手際によりお心を深く傷つけてしまったことをお詫び申し上げます」と述べ、今後同様の事案の発生を招かないよう、徹底したハラスメント予防を行い、健全な組織づくりに努めていくとしている。